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「そ、れは……そしたら、えっと……ーーそう! この店のスパイスはディスディアスからわざわざ買い付けにくる客がいるんだって自慢できるよ!」
「今だって充分来てんだよ!」
「今以上に来るってぇ! 宣伝だと思ったら安いよ⁉︎ だって海外だよ? 私を満足させるだけで国外での宣伝費が無料だよ⁉︎ うわぁーやっすぅーい!」
「安いわけあるかぁ⁉︎」

 店員の額に青筋が浮かんだのを見計らい、ゼクスがクスクスと笑いながら二人の会話に割って入った。

「リアーヌ、とっても楽しい会話なんだけど……、そろそろ決め始めないとお昼ご飯が遅くなっちゃうしーー」

 ゼクスはそう言いながら店の間口を振り返り、そこから興味深そうに中を眺めている野次馬たちを振り返った。

「お店から離れられない人たちも増えて来たし?」

(おう……いつのまにギャラリーなんて……)

 粘りに粘ったリアーヌの声が聞こえたせいか、だんだんと大きくなっていった店員の声に気を引かれたのか、店の前には、決して少なくは無い人数がニヤニヤと興味深そうに、二人のやり取りの決着を見届けようと集まっていた。

「でも……」
「ーーリアーヌ、俺から見てもこのあたりが引き際だと思うよ……?」

 まだまだ粘れると鼻息を荒くするリアーヌだったが、ゼクスはそんなリアーヌ人コソリと耳打ちする。
 ゼクスとしては、どうして今回はリアーヌがここまで強気の粘りを見せているのか理解が出来なかった。
 いつもならば、世間話の延長線のような気楽さで店員と仲良くなり、互いに気持ちよく値下げ交渉をするのだが、今回は何かを確信しているかのように、強引な値下げ交渉をしていた。

(初めて他人の金を預かって交渉してるから、気合いが空回ってる……?)

 ゼクスからの指摘に、リアーヌはようやく自分がやりすぎていたことを理解した。

(ーーヤッベェ……私、喜んでる自分の姿しか見てないのに、なんでこんなに下げられると思ったんだろう……ーー値切りの極意は優しさなのよって母さんに言われてたのに……)

 ゼクスに声をかけられ大人しくなったリアーヌに、これ幸いと店員は畳み掛けるように話しかける。

「時間切れか? それで買い物はどうする? これは辞めとくか?」
「買います……あと、生姜とローリエも……」

 どことなく元気を無くしながらも、リアーヌは頼まれていたスパイスを買い揃えようと指をさしていく。
 そして店員はリアーヌが新しいスパイスを指すたびに頬をひきつらせていった。

「……嬢ちゃん、まだまだ粘る気だったんだな……?」
「……ごめんなさい?」

 リアーヌは申し訳なさそうに首を傾げた。
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