上 下
759 / 1,038

759

しおりを挟む
 しかしリアーヌたちはその言葉に笑顔を浮かべ返せなかった。
 あー……と言葉を濁しながらザームと視線を交わし合う。

「肉嫌いだったか?」

 そんな二人の反応に、戸惑うようにたずねる店主に答えたのはザームだった。

「いや、今でも大好きだ。 ーー姉ちゃんだけはレルリンガじゃなく、アウレラに行くんだ」
「ーーアウレラ? アウレラって島国のあのアウレラか?」

 ザームの言葉にヨッヘムが反応し、ザームは頷きながらさらに説明を重ねた。

「そのアウレラ。 男爵の商談についていくんだと」
「……名目上は視察旅行への同行でーす」

 このままいくと、本当にゼクスと避暑旅行に行ったと言われそうな不安を感じ取り、リアーヌは「お仕事の一環ですよー」と、やんわりと釘を打った。

「視察じゃねぇとまずいのか?」

 なにかを感じ取った店主は首を捻りながらたずね返す。

「……まだ結婚してないんで?」
「……二人っきりじゃあるまい?」
「それでもダメなのかお貴族様なんで……?」
「ーー苦労してんだなぁ?」
「……アウレラ行けるのは楽しみ」
「楽しんでこい……?」
「ーーみやげ忘れんなよ?」

 リアーヌと店主の会話に割り込んだザームは、もう何度目になるかわからないほどの念押しを再度行う。

「……もうそれ聞き飽きたって。 ソフィーナ様の分までちゃんと買ってきます! これでいい?」

 うんざりしながらも答えを口にするリアーヌ。
 これを言わない限り、ザームが納得しないと、今までの経験から知っていた。

 「ーーなぁ嬢」

 そんなリアーヌに神妙な声をかけてきたのは、どこか探るような目をしたヨッヘムだった。

「……なに?」
「ーーバイトしねーか?」
「……私明日から外国ですが……?」
「その外国でやるバイトだよー」
「――ちなみにどんな?」
「あの国はいいスパイスが集まってくるって有名なんだ」
「――そうなの⁉︎」

(その話、初耳ですけど⁉︎ ……まぁ、日本的イベントの帳尻合わせの為の国って認識しかしてなかったけど……この世界に存在するんだから、そりゃ私が知らない一面の一つや二つ出てくるか……)

「おー。 なんでも美食家が多いらしくてな? 海外からたくさんのスパイスを買い付けてるんだと。 んで、そのアウレラ人も認める上手いスパイスってことで、アウレラで売ってるスパイスはこの国で人気が高けぇんだ。 だから嬢、おっちゃんの代わりにスパイス買い付けてきてくんねぇか?」
「買い付けって……」

 戸惑うリアーヌを拝むように手を合わせるヨッヘムがさらに言葉を重ねる。

「ラッフィナートみてーにでっかいトコならアウレラの商品なんて扱い放題なんだろうが、うちみてぇに小っちぇーとこなんか、アウレラのスパイスなんて中々扱えねーんだわ……」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...