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困ったように笑いながらかけられた主人から言葉に、ヴァルムは表情を引き締め、深々ともう一度頭を下げると、短く了承の言葉を口にした。
「ーーお心のままに」
「うむ。 ではそのように頼む」
「はっ」
そう返事を返しながらヴァルムは一歩下がり、そのまま壁際に控えた。
「……これでリアーヌは平気ね?」
「ーーこの話に関しちゃな?」
その言葉に、部屋の中にピリリッとした緊張が走る。
「……やっぱりファルステル家はダメ?」
「ああ……嫌な感じだ」
「極力接触を避けているのに、それでもダメなのねぇ……?」
「ダメだなぁ……?」
「これは、こっちからなにかしないとダメなパターンなのかしら?」
「いや……それもそれで良い感じはしねぇんだよなぁ……」
困り顔でガシガシと頭を掻きむしるサージュを横目に、リエンヌはテーブルの上に肘をつき、その手をこめかみに当てて目を閉じる。
そしてほんの少しの時間の後、ゆっくりと口を開いた。
「……きっと王妃が動くの。 実行犯は別かもしれないけど、その人を動かすのは王妃なのよ」
「……そうなのか?」
「多分ね? 豪華な扇子で顔を隠してる偉そうな人が、あの女の子の後ろで高笑いしてるのよ……今日、挨拶した時の背格好とも合うし、声も似てるから間違い無いと思うわ? ……顔は見えないんだけど……」
「王妃は敵か……ーーあー、敵だなぁ。 リエンヌの見えてる女は王妃で間違いなさそうだぞ?」
サージュの言葉に「そう!」と、言いながら顔を明るくしたリエンヌだったが、すぐさまその顔を不安そうに歪めてしまう。
王妃ーーこの国で一番高貴とされている女性が敵なのだ、ということを改めて認識してしまったからなのかもしれない。
「うまくやれるかしら……?」
「……敵がデケェからなぁ?」
「ーーこの国で一番よ?」
「……ちょっとずつやるしかねぇさ。 この家に来た時と同じだ」
「……そうね? あの時だってなんとかなったんだから、今回だって……!」
「だな。 あん時よりずいぶんマシだ。 俺もお前も貴族。 リアーヌにも貴族の婚約者ーー味方だって大勢増えた」
「そうよ! それにこれを乗り越えなきゃリアーヌが幸せになれないんだもの……絶対に乗り越えなくっちゃ!」
(……おっと? それはつまりーー私の悪役令嬢への転職が水面下で進んでいるということでしょうか……?)
両親たちの会話を聞いていたリアーヌはその内容に、ヒクリと頬をひきつらせた。
しかしリアーヌが口を開く前に、唸り声のようなため息がサージュの口から漏れ出ていた。
「ーーお心のままに」
「うむ。 ではそのように頼む」
「はっ」
そう返事を返しながらヴァルムは一歩下がり、そのまま壁際に控えた。
「……これでリアーヌは平気ね?」
「ーーこの話に関しちゃな?」
その言葉に、部屋の中にピリリッとした緊張が走る。
「……やっぱりファルステル家はダメ?」
「ああ……嫌な感じだ」
「極力接触を避けているのに、それでもダメなのねぇ……?」
「ダメだなぁ……?」
「これは、こっちからなにかしないとダメなパターンなのかしら?」
「いや……それもそれで良い感じはしねぇんだよなぁ……」
困り顔でガシガシと頭を掻きむしるサージュを横目に、リエンヌはテーブルの上に肘をつき、その手をこめかみに当てて目を閉じる。
そしてほんの少しの時間の後、ゆっくりと口を開いた。
「……きっと王妃が動くの。 実行犯は別かもしれないけど、その人を動かすのは王妃なのよ」
「……そうなのか?」
「多分ね? 豪華な扇子で顔を隠してる偉そうな人が、あの女の子の後ろで高笑いしてるのよ……今日、挨拶した時の背格好とも合うし、声も似てるから間違い無いと思うわ? ……顔は見えないんだけど……」
「王妃は敵か……ーーあー、敵だなぁ。 リエンヌの見えてる女は王妃で間違いなさそうだぞ?」
サージュの言葉に「そう!」と、言いながら顔を明るくしたリエンヌだったが、すぐさまその顔を不安そうに歪めてしまう。
王妃ーーこの国で一番高貴とされている女性が敵なのだ、ということを改めて認識してしまったからなのかもしれない。
「うまくやれるかしら……?」
「……敵がデケェからなぁ?」
「ーーこの国で一番よ?」
「……ちょっとずつやるしかねぇさ。 この家に来た時と同じだ」
「……そうね? あの時だってなんとかなったんだから、今回だって……!」
「だな。 あん時よりずいぶんマシだ。 俺もお前も貴族。 リアーヌにも貴族の婚約者ーー味方だって大勢増えた」
「そうよ! それにこれを乗り越えなきゃリアーヌが幸せになれないんだもの……絶対に乗り越えなくっちゃ!」
(……おっと? それはつまりーー私の悪役令嬢への転職が水面下で進んでいるということでしょうか……?)
両親たちの会話を聞いていたリアーヌはその内容に、ヒクリと頬をひきつらせた。
しかしリアーヌが口を開く前に、唸り声のようなため息がサージュの口から漏れ出ていた。
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