成り上がり令嬢暴走日記！

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　ビアンカは実験動物を眺める時のような、無機質で機械的な視線をゼクスに送ると、頭の中でどのようなパターンの実験が効果的なのかを検討し始める。
　そのご令嬢あるまじき、研究者然とした態度にゼクスどころかリアーヌまで後ずさりを始めた頃、ようやくパトリックが止めに入った。

「ーービアンカ相手は選んで欲しい……相手は男爵だ……ーーただのクラスメイトでは無い」
「ーーあら嫌だわ私わたくしったら……ーーちなみにパトリック様に協力をご依頼した場合ーー」
「本当に選んでくれないかな⁉︎」

　頬をひきつらせながらそんなやりとりを見ていたリアーヌは、ビアンカのすぐそばに協力を惜しまなそうな男性が一人いることを思い出していた。

（……アロイス君、ゲームで攻略してた時よりも、ガチガチの研究者っぽかったし……そういう協力も惜しまなさそう……）

　そう考えながらゼクスに気の毒そうな視線を向けた。

「……もしかしてビアンカ嬢の協力者に心当たりがあったりする？」
「……この間お茶をご一緒したコルターマン伯爵家のアロイス様は、各国各地のギフトの研究に興味があるみたいで……ーーあ、ザームの友達なんですけど」
「コルターマン伯爵……ーー海岸沿いと国境を守る辺境伯の……？」
「国境……？　クレバス湿地帯の近くの港町が地元だっておっしゃってました」
「うん、リアーヌ。　クレバス湿地帯はうちの国の国境だからね？」
「――えっ⁉︎　じゃあ……研究者の多くは国境近くの湿地帯に嬉々として調査に向かっている……？」

　そんな疑問に答えたのはビアンカだった。

「国境近くだからこそ、なかなか許可が降りないんですわ？　ーーけれどコルターマン家の許可があればその許可は随分と下りやすくなりますの……私がフィールドワークに出る際は是非とも許可をいただきたいですわ……」
「……貰えるといいですね？」

　ビアンカの言葉に社交辞令としてそう答えたゼクス。

「ーー協力してくださいますか？」

　しかし、そう答えたビアンカの表情は、決してご令嬢が浮かべてはいけないほどにはギラついていて、周辺ににそう少なくは無い恐怖をもたらした。

「……と、申しますと？」
「アロイス様はギフトの研究がご趣味でして……」
「――独特な趣味ですね」
「アロイス様ならばきっとゼクス様の魅了にかかってみたいとおっしゃると……っ‼︎」

　そんな本気の目をしたビアンカの唇をパトリックが無言で押さえつけた。
　そして少々圧がこもった笑顔をビアンカに向けながら言い聞かせるようにゆっくりと喋り始めた。