成り上がり令嬢暴走日記！

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「ーーああそれと……」

　挨拶が終わり入り口に足を向けかけたヴァルムだったが、ふと立ち止まりフィリップに向かって独り言を言うように話し始めた。

「先ほどの騒ぎですが、王妃様がお客人をお招きするーーと言う形で一応の収束はしたご様子でしたよ？」

　ヴァルムはそう言い切ると誰からの返事も待たずに、軽く頭を下げて颯爽と部屋を出ていった。

「ーーそれはそれは……なんとも寛大なご判断。　さすがは王妃様だ」

　ヴァルムが出ていった扉に向かい、フィリップも独り言のように呟き返す。
　その呟きを聞きながら、他の者たちも無言で視線を交わし合った。

　ーー多くの貴族が集まる場所で、王妃がそこまでの配慮を見せたのならば、多くの者たちがユリアを王妃派ーー第一王子派だと認識する。
　それはフィリップたちの思惑通りの流れだったのだが、やはり守護のギフトを持つユリアが第一王子派に組み込まれるのはあまり面白い話題ではなかったようだ。

「……ーー先ほどのお話、どっちでもいい、はあんまりじゃなくて？」

　微妙になってしまった室内の空気を変えるべく、ビアンカが肩をすくめながらリアーヌに話しかけた。
　リアーヌのお粗末な対応を揶揄する意味もあったが、自分という友人がいる前でのあの発言は、少しだけ思うところもあるようだった。

「……付属品的に二番目だけど、正直そこまで好きでは無――」
「リアーヌぅ？　今言われたばっかりだよねー？　言葉づかいには気をつけようねー？」

　慌てて声をかけ、リアーヌの暴走を止めるゼクス。

　事情を知らない者たちからすればリアーヌの言葉は、主語をボカしたものだったのだが、ここに集まる者たちは全員が事情を知っている者たちばかり。
　そんな中、クラリーチェたちを付属品と例えることも、レオンを二番目と称することも、不敬どころの騒ぎでは無かったのだ。

「……お若い方のほうが勢いもありますし……ーー周りに咲く花にも好感を覚えております……？」

　ゼクスに嗜められたリアーヌは、持ちうるすべての知識を駆使して、お綺麗な言葉に言い換えた。
　その努力は無駄では無かったようで、ゼクスは大きく息をつきながら頷き、ビアンカは小さく鼻を鳴らしながら肩をすくめていた。

　ーーしかしビアンカの思惑通りの部屋の中の空気はどことなく緩み、再びフィリップには次の話題を振る程度の心の余裕は生まれたようだった。

「……これでボスハウト家の意向は固まったと見て良さそうですね。　ーー意見を共にする方々も増え……心強い限りですーー男爵も共になさると考えても？」
「……うちは共にしますが……ーー実家はどう動くか……商家ですので好き嫌いだけでは動きませんからねぇ？」