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 そんな万が一や体調管理も兼ねて、決して少なくはない日が予備日としてリアーヌの予定に組み込んでいたのだ。

 ――しかし、たいした面識も仮もない、学院の一女生徒にそんな事情を説明してやる義理も、予定を調整する義理もありはしなかった。

(そもそもこんな直前に、ヒマな日なんて明確に答える貴族なんか居ないんですことよ! 大体……この子にそんな予定バラしたら確実にヒロインに筒抜けになってゼクスやラッフィナート家に迷惑かかるじゃないですかー。 やだぁー……)

「一日も……その、半日ですら空いていらっしゃらないんですか……?」

 ベッティは、疑っていることを隠そうともせずに疑惑に満ちた視線をリアーヌに向けながらたずねる。

「ーー今のところそうなりますね……?」

 リアーヌは申し訳なさそうに眉を下げながら首を傾げて見せる。

(予備日はなにも予定が埋まらなかったら丸っとお休みになるんだから! みんなの予定があったら家族全員でピペーズ通りて美味しいもの巡りする予定なんだから! いくら前世ではお世話になったお助けキャラの貴女であっても、その邪魔はさせたりしないっ!)

「ーー今ってことは、これから変わるかもしれないってことですか⁉︎」
「……ほとんどがお相手のある予定ですので、わたくしにもどう変わるのか……」

 うふふ……とおっとり微笑みながらベッティの追求を躱すリアーヌ。
 ここでベッティに、空いている日を喋ったりしなければ及第点。
 のらりくらりとしているだけで良いので気楽なやり取りだった。

(あんまり時間かけるとザームから「遅え」って文句言われそうだけどー)

「だったらゼクス様のご予定はどうですか⁉︎」
「……どう、ですかって?」

 リアーヌの想定の中には無かった質問をされ、ご令嬢の仮面が剥がれかけるが、リアーヌに向かい必死に言葉を投げかけているベッティには気がつかれなかったようだ。

「リアーヌ様がお会いにならない日だったらユリアに譲ってくれますか⁉︎」

(……えっと? あれ? この子……下手に出ているような空気を醸し出しているけど――失礼、だよね? ……いや言葉自体は失礼じゃないけど……こう……失礼だよね⁇)

「……ダメ、でしょうか?」

 胸の前でキュッと両手を握りしめながら上目遣いにたずねてくるベッティにリアーヌはゆっくりと深呼吸をしてご令嬢の仮面を付け直した。

「ーーゼクス様にはゼクス様のご予定がありますので、私が譲るようなものでは……」
「でもリアーヌ様がゼクス様とユリアを合わせないんですよね⁉︎」
「ええ……?」
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