成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「人の感情を読み解くというのは……案外難しいものなんだな……」

 げんなりしたようにソファーに背中を預けながらレオンが呟いた。
 その心の中は、ユリアがなにを望んでいるのかまったく理解できていないことへの不甲斐なさで一杯だった。

「ーー彼女は仕方がないだろう……私から見てもーーそれこそ同姓であるレジアンナやクラリーチェ嬢でもその真意を推し量りかねている……」

 フィリップはそんなレオンを気づかうように優しく語りかけた。

「それはそうなのだが……ーー分かってはいたが授業通りとはいかないな……」
「それは――……そうだな? ーーだから今は存分に失敗して、多めに見てもらおうじゃないか。 ……イヤでもその時はやってくるーー守られながらの社交はもうすぐ終わりだ」
「……そうだな。 学院を卒業してしまえば成人ーー泣き言を言っているヒマなどない、か……」
「ああ。 まずは自分たちの足場を固めなくてはな」

 フィリップはそう言いながらパトリックたちに視線を送る。
 パトリックやイザーク、ラルフはその視線に大きく頷きながら、気合を入れるかのようにグッと背筋を伸ばしながら口を開く。

「まずはこの夏休暇でより多くの繋がりを」
「偽りを言う者は、すぐに排除を……」
「フィリップ様たちの敵は僕がしもやけにしてやります!」
「ーーずいぶんと可愛らしい報復方法だな……?」

 ラルフが口にした言葉にレオンが吹き出し、によによと唇を歪めながら肩をすくめる。

「ーーだってお二人の敵が氷漬けになったら真っ先に疑われちゃうじゃないですか⁉︎」
「それはそうだが、だからと言ってしもやけは……」

 レオンはそう返すと口元を手で覆い隠しながらクツクツと背中を振るわせる。
 フィリップたちも呆れた表情でその辺りやりとりを眺めているが、その口元が歪むことは抑えきれない様子だった。

「ーー一年いちねんの差は大きいのだろうな……」

 ひとしきり笑い合ったのち、ソファーにもたれ掛かりながら天井を見上げたレオンはポツリと呟いた。
 入学当時に感じたフィリップや友人たちの頼もしさを、卒業後にも感じふのだろうな……と考えながら、レオンはゆっくりと息を吐き出し、ため息ややるせなさををごまかした。

「レオン……――今は力を蓄える時だ……そうだろう?」
「ーーそう、だな」
「……私の手足は君の手足だ。 私の目も耳も君の目や耳になる……ーーだろう?」

 そんな優しいフィリップの声を聞いていたレオンは心が軽くなっているのを感じると同時に、なんだか背中が痒くなるほどの気恥ずかしさを感じていた。

「ーーもしかして……今、僕を口説いているか?」
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