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「……しかし結局は男爵がラッフィナート商会をお継ぎになるのですから、すぐに赤字も補填できるのでは……?」

 リアーヌの主張も、ゼクスの性格もよく知らないアロイスは、リアーヌの主張がいまいち理解できずに首を傾げた。

「それはそうなんですけど……――今は別々の家で、男爵家はゼクス様が代表者で……ーーものすごく極端な話、ラッフィナート商会はよその家なんですよ。 もちろんゆくゆくはゼクス様が継ぎますし、工事の援助も受けてはいるんですけど……――でもゼクス様の中では違う家ってことになるので、儲け話を横から掻っ攫われると、商人のプライドが刺激されるみたいです」
「……それは――難しい問題ですね……?」

 商人のプライドのなんたるかを理解できなかったアロイスは、困ったようすで同意しながらも答えを濁すのだった。

「ねーちゃん、おかわりー」
「もう⁉︎ ……てか、あんなでっかいの食べたんだから今日はもうやめといたら……?」

 リアーヌはケロリとしているザームと、その前に置かれた空っぽの器を見比べながら顔をしかめた。

「……んじゃソフィーナに一つ」
「――それ結局、あんたの腹に収納されるやつじゃん……」

 リアーヌに呆れた顔で言われ、面白くなさそうに顔をしかめたザームはソフィーナに向かって口を開く。

「ソフィーナだって食いたいよな?」
「えっ⁉︎ ええと……はい……?」
「ーーだってさ」

 そんなソフィーナの答えに、勝ち誇ったような顔でリアーヌに笑いかけるザーム。

「ーー別にいいけど、お腹壊さないようにね」

 肩をすくめながらそう言ったリアーヌは慣れた手つきでかき氷を作り出し、そして慣れた手つきでレモンのシロップに手を伸ばしたところでザームが慌てて付け加えた。

「次はイチゴ……あと練乳もつけて……」

 気まずそうにモゴモゴと注文をつけるザームに、リアーヌはによによとだらしなく歪みそうになる口元を叱咤しつつ、いつも通りを心がけながらイチゴのシロップに手を伸ばした。

 ザームはイチゴのシロップをそこまで好まず、練乳はほとんどかけようとしないことをリアーヌはきちんと覚えていた。
 つまりこれは正真正銘、ソフィーナのためのかき氷なのだとはっきり理解できたのだ。

(ーーいけない! ここでザームをからかったりしてはいけない……! これは甘酸っぱい恋の一ページとかじゃないからっ! 家と家を繋ぐための婚約で、なにがなんでもうまくまとめないと、ザームもソフィーナ様も幸せに慣れないタイプの恋愛だからっ! ーーからかってギクシャクさせるダメ絶対!)

 自分に言い聞かせるように心の中で唱えてから、出来上がったばかりのかき氷に二つのスプーンを添えて二人の間に差し出す。
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