666 / 1,038
666
しおりを挟む
◇
春も終わりに近づき、日差しに厳しさが混じり始めた頃――
リアーヌは、ボスハウト家のサロンに友人たちや弟を招き、お茶会を開催していた。
「姉ちゃん、氷ー」
ソファーで足を組みながらくつろいでいたザームがリアーヌに声をかける。
その声にお茶を準備していた手を止め、盛大に顔をしかめる。
「またぁ?」
「特大な」
“氷”という単語だけで会話が出来てしまうほどには、リアーヌはこのところザームや家族、そして使用人たち相手に氷のギフトを使ったかき氷を振る舞い続けていた。
「あら、いいわね?」
そんなやりとりを耳にしたビアンカが、どこか期待を滲ませた瞳をリアーヌに向けながら言う。
リアーヌから、かき氷を家族に振舞った話は聞いていても実際に食べたことはなく、この機会に……と考えているようだった。
「ビアンカたちも食べるー?」
かき氷ようの食器を用意しながらたずねるリアーヌの声に、ビアンカは同じ席に着いていた友人――アロイスに視線を送り答えを待った。
そんなビアンカからの視線に少し戸惑った様子のアロイスだったが、同意するように軽く頷き返すと、ビアンカが答えるよりも先に、そんなやりとりを見ていたザームが「かき氷、追加でニ丁ー!」と答えていた。
そんなやりとりに目を白黒させるアロイスだったが、リアーヌたち兄弟の暴走を止める者たちはこの場には居なかった――
というのも、今回の集まりは“お茶会”という形をとった勉強会であり、そしてその頭には“内密な”と付けた会だったためだ。
そのため、この会に参加しているどの家者たちも、お付きの者たちをこのサロンの中に配置していなかったのだ。
――とはいえドアの外には有事の際にすぐに入れるよう、多くの護衛や使用人たちが控えていたのだったがーー
「お手伝いさせて下さい!」
一人の少女がリアーヌに歩み寄りながら懇願する。
そんな少女にリアーヌは困ったように愛想笑いを浮かべながら作ったばかりのレモンかき氷を差し出した。
「あ、それではこれをザームに渡していただけますか……?」
「お任せください!」
それを手にザームの元へ戻る少女。
置いてすぐにリアーヌの元に戻ろうとした少女――ソフィーナ・ネルリンガ――を押し留めたのは、婚約者でもあるザームだった。
かき氷をソフィーナに渡し「あ」と言いながら大きく口を開けて見せたのだ。
「ーーあっ、はいっ!」
そんなザームの行動に、頬を染めながら隣に座ると甲斐甲斐しくかき氷をその口に運んでいくソフィーナ。
そんなやりとりをチラリと眺めながら、リアーヌは(ソフィーナ様が良いなら良いと思いますけどね……)と、どこか納得がいかなそうに肩をすくめた。
春も終わりに近づき、日差しに厳しさが混じり始めた頃――
リアーヌは、ボスハウト家のサロンに友人たちや弟を招き、お茶会を開催していた。
「姉ちゃん、氷ー」
ソファーで足を組みながらくつろいでいたザームがリアーヌに声をかける。
その声にお茶を準備していた手を止め、盛大に顔をしかめる。
「またぁ?」
「特大な」
“氷”という単語だけで会話が出来てしまうほどには、リアーヌはこのところザームや家族、そして使用人たち相手に氷のギフトを使ったかき氷を振る舞い続けていた。
「あら、いいわね?」
そんなやりとりを耳にしたビアンカが、どこか期待を滲ませた瞳をリアーヌに向けながら言う。
リアーヌから、かき氷を家族に振舞った話は聞いていても実際に食べたことはなく、この機会に……と考えているようだった。
「ビアンカたちも食べるー?」
かき氷ようの食器を用意しながらたずねるリアーヌの声に、ビアンカは同じ席に着いていた友人――アロイスに視線を送り答えを待った。
そんなビアンカからの視線に少し戸惑った様子のアロイスだったが、同意するように軽く頷き返すと、ビアンカが答えるよりも先に、そんなやりとりを見ていたザームが「かき氷、追加でニ丁ー!」と答えていた。
そんなやりとりに目を白黒させるアロイスだったが、リアーヌたち兄弟の暴走を止める者たちはこの場には居なかった――
というのも、今回の集まりは“お茶会”という形をとった勉強会であり、そしてその頭には“内密な”と付けた会だったためだ。
そのため、この会に参加しているどの家者たちも、お付きの者たちをこのサロンの中に配置していなかったのだ。
――とはいえドアの外には有事の際にすぐに入れるよう、多くの護衛や使用人たちが控えていたのだったがーー
「お手伝いさせて下さい!」
一人の少女がリアーヌに歩み寄りながら懇願する。
そんな少女にリアーヌは困ったように愛想笑いを浮かべながら作ったばかりのレモンかき氷を差し出した。
「あ、それではこれをザームに渡していただけますか……?」
「お任せください!」
それを手にザームの元へ戻る少女。
置いてすぐにリアーヌの元に戻ろうとした少女――ソフィーナ・ネルリンガ――を押し留めたのは、婚約者でもあるザームだった。
かき氷をソフィーナに渡し「あ」と言いながら大きく口を開けて見せたのだ。
「ーーあっ、はいっ!」
そんなザームの行動に、頬を染めながら隣に座ると甲斐甲斐しくかき氷をその口に運んでいくソフィーナ。
そんなやりとりをチラリと眺めながら、リアーヌは(ソフィーナ様が良いなら良いと思いますけどね……)と、どこか納得がいかなそうに肩をすくめた。
10
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる