成り上がり令嬢暴走日記！

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　レジアンナのその言葉に、リアーヌはホッとするとするど同時に、その隣で困ったように前髪をいじるフィリップにどうしようもなく苛立ちを感じた。
　――そして少しのいたずら心からレジアンナに向かい、そっと口元に手を当てながら声をひそめた。

「……フィリップったらメイドさんと――」
「それは“イジワル”だなんて簡単な言葉でかたがつくような話ではない気がするけれど？」

　にこやかに、けれどキッパリと言い放つフィリップ。
　思い切りリアーヌの言葉を遮っているところが、彼の焦りを物語っていた。

「ーー本当だとしたら不潔だわ……？」

　愛しい婚約者にジトリ……と疑わしげな視線で見つめられ、フィリップは悲鳴を上げるように「レジアンナ⁉︎」と叫んだ。

「ーーそれはリアーヌが受けたかもしれない謗そしりですので、甘んじて受け入れては？」

　レジアンナがリアーヌ側についたことを瞬時に理解したゼクスはクスクスと冗談めかして笑いながら、フィリップをチクチクと攻撃する。

「結果が全……ーー重要視されるべきかと……」

　意地で笑顔を作ったフィリップは、言外に「そんなことにはならなかっただろうが」と伝ようとするが、まさか当の本人の目の前、そしてその後ろに控えるボスハウト家の使用人たちに聞かせるべき言葉ではないと、言葉尻を濁した。
　そんなフィリップに肩をすくめるだけで答えるゼクス。
　――そんな風に、ゼクスが攻撃の手を緩めたのは、後ろのほうから感じる圧の強さに、ほんの少しの哀れみを覚えたからなのかもしれない。

「リアーヌ様……」

　レジアンナたちとの会話がひと段落した頃、初めの挨拶以降ずっと無言を貫いていたクラリーチェがおずおずとリアーヌに話しかけた。
　それにゴクリと唾を飲み込んだリアーヌは気合を入れながら返事を返す。
（……流石にクラリーチェとはこれまで通りってわけにはいかないんだろうな……）と残念に思いながら。

「ーーこの度はレオン様が申し訳ございませんでしたっ！」
「……ぇ？」

　ガタリと音を立てながら椅子から立ちがったクラリーチェは、その勢いのまま深く頭を下げながら一気に言い放つ。
　そのありえない光景に、リアーヌは公爵令嬢に頭を下げさせていることも忘れ、ポカン……と口を開けてクラリーチェのつむじを見つめていた。

「――君が謝ることではない⁉︎」

　真っ先にその衝撃から立ち直ったのはレオンで、頭下げ続けるクラリーチェの身体を下から掬い上げるように両肩を抱き、頭を上げさせた。

「悪いのは私だ。　君にはなんの咎もない」
「いいえっ！」

　レオンの言葉にクラリーチェはフルフルと首を振りながらレオンに非難の瞳を向けた。