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「リアーヌ嬢の身柄を押さえているからねぇ? 安全だと絶対の確信が持てるまでは動き出さない……ーー出せない、かな?」
「そう考えれば、早い……のか?」

 レオンからの問いかけにフィリップは少し考えながら口を開く。

「うーん……利害は一致していても、オリバー殿が不在だからねぇ……ボスハウトとラッフィナートの護衛たちが連携をとるところから……ーー遅くはない、程度の評価だな」

 そんなフィリップの答えに頷き返していたレオンだったが、不意に顔を曇らせると、ため息混じりにポソリと呟いた。

「……私には目も耳も、手足すら足りなすぎるな」
「今だけさ。 それまでは私が代わりに」
「……頼む」
 
 そんな会話を交わしながら視線を交わし合う二人。
 そして照れ臭そうに笑いながら顔を逸らすとーー

 少しの悲鳴や非難の声と共に、サロンに客人がやってきた。
 その人物はフィリップたちに挨拶させる暇も与えずにズンズンと足を進める。
 フィリップが、それに反応しそうになる護衛や友人たちを片手をあげて押し留めている間に目の前までやってきていた客人は、座っていたフィリップを冷たい視線で見下ろしながら短くたずね。

「……どこだ」
「……挨拶も無しに――っ⁉︎」

 ため息混じりに言葉を話し始めたフィリップに舌打ちをしたゼクスは、その胸ぐらに手を伸ばし、グイッと力任せに持ち上げながら再度質問を重ねる。

「どこにいるのかと聞いて聞いている」

 このゼクスの暴挙にパラディールの護衛たちやパトリックたちがなんの反応も出来なかったのは、どこからともなく現れたカチヤとコリアンナが、両手を使って彼らの背後に“なにか”を突きつけているからだった。

「ーーずいぶんな態度だと思うがね……!」

 内心の動揺をひた隠しにしながら立ち上がったフィリップは、いまだに胸ぐらを掴んでいるゼクスの手を無理やり引き離しながら言葉を返した。
 その言葉に返事を返したのはゼクスではなくコリアンナたちだった。
 するりと姿勢を正すと、リアーヌよりも随分と洗練された所作でフィリップたちに向かい挨拶をし始める。

「これは失礼を……パラディール家御嫡男フィリップ様。 ご挨拶申し上げますーーわたくし、ボスハウト家に仕えておりますコリアンナと申します」
「突然の訪問失礼致しますわ。 ――パトリオート家レオン様。 カチヤでございます」

 ーーレオンがパトリオート家の次男だという設定などはありはしない。
 これは『お前の素性は知っているからな』という、カチヤたちからの簡単な脅しであった。
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