上 下
629 / 1,038

629

しおりを挟む
 その言葉にピクリと反応を見せたパトリックたちだったが、互いに視線を交わし合い無言を貫く。
 そんな友人たちの様子に気がついていたフィリップは、困ったように肩をすくめながら冗談めかして答えた。

「ボスハウトもうちも王家に連なる血だから、親戚といえば親戚なんだけど……ーー彼女は市井しせい育ちだからねぇ? そうなると根本とする常識が我々とは違ってしまうのだろうねぇ?」

 その言葉でレオンは自分の失言に気がつき、キュッと唇を噛み締める。
 そして大きくため息をつきながらフィリップに視線を向けた。

「……ーー本当に本物なのか?」

 これは、ボスハウト家のご令嬢としてのリアーヌも、自分の“再従兄弟はとこ”としてのリアーヌも、どちらとも疑った発言だった。
 レオンの常識の中で、あの状況であのような暴挙に出るご令嬢など存在しなかったのだ。
 彼女は偽物であり、本物のリアーヌのために自分を排除しようと動いたのだーーと説明されたほうがまだ納得できた。
 ーーそしてその気持ちが大いにわかってしまうフィリップも、苦笑を浮かべながら肩をすくめた。

「……おそらくは? うちの者でも、証拠らしい証拠は掴めなかった……ーーけれど、陛下の態度こそが証拠になりえると考えているよ」
「陛下か……」
「ああ。 誰の目から見ても、陛下はボスハウト一家に格別の配慮を見せているーーまぁ、今まで優遇してやれなかった罪滅ぼしといえば納得してしまえるほどのものだけれど……ーーそれでも配慮していることは事実だ」
「……それすらもフェイクということは?」
「……そのフェイクでオリバー殿を――王家にしか傅かない者たちを下げ渡すとは……ましてやまだ若いとはいえ、陛下の侍従……そこまでする必要はないと思っているよ」
「……どう思う?」

 レオンは後ろに控えるエーゴンにーーオリバーと同じく、王家にしか傅かない者たちの一人に意見を求めた。

「ーー主人を陛下と定めているならば、監視という可能性もありますが……」
「……なんだ?」
「どちらにしろこれ以上探ることは得策ではないかと愚考いたします」

 このエーゴンの意見が正しくとも間違いであろうとも、それを明らかにすることを陛下もボスハウト家とも良しとはしない。
 これ以上踏み込むということは最低でも陛下の考えを蔑ろにする行為であり、そして……正真正銘リアーヌがレオンの再従兄弟であり、オリバーがボスハウト家に忠誠を誓っているのであれば、陛下の考えを蔑ろにした上、ボスハウト家を――ボスハウト家の使用人たちを敵に回すということに他ならなかったーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...