成り上がり令嬢暴走日記！

625

　とびきりの笑顔でそういったフィリップ。
　ーーだが、その笑顔から感じる圧にリアーヌはゾクリと背筋を震わせていた。

（……まぁそりゃそうなる……ーーだって、それ言い出したの教室でしょ？　しかも一年とはいえ教養学科のＳクラス……ーー王妃様の派閥だっているだろうし、王家やパラディールの足を引っ張りたい家だってどこに潜んでるか分からない……――大体ユリアと仲良くしてるってだけで注目されてるだろうに……ーーフィリップの様子から見ると、火消しに相当苦労したんだろうな……ーーん？　待って？　今さっきまで私が疑われてたのって、その情報を喋っちゃったってことなのでは⁉︎）

「ーー私、喋ってませんよ⁉︎」
「……そのようだね？　家からも正式に謝罪が行くとは思うけれど……」

　と、フィリップが猫撫で声でリアーヌをどうにか懐柔できないかと、柵を巡らせ始めた頃ーーレオンはその言葉に大きく反応し、吐き捨てるように言った。

「こんな話だけで信じるつもりか⁉︎」
「――そうだよ。　私は彼女が漏洩元では無いと判断する」

　しばらくの間無言で見つめ合うフィリップとレオン。
　やがて先に顔を逸らしたのはレオンのほうだった。
　ーーリアーヌはそんな二人のやりとりを眺めながら（猫の喧嘩みたい……）と、一人場違いなことを考えていた。

「……謝罪しよう」

　チラリと視線を向けられそう言われたリアーヌは、カチンと頭の中で試合のゴングのようなものが鳴ったのを自覚していた。
　ニコリとビアンカ直伝の美しい微笑みを浮かべ、クスクスと笑いながら口元を手で覆いーーそしてレオンに向けて言い放った。

「ーーどうぞ？」
「……なに？」

　訝しげなレオンにリアーヌは一際大袈裟に驚いて見せ、そして不思議そうに小首を傾げながら再び口を開いた。

「あら……今、謝罪をしたいとおっしゃったから……ーー後で、ということだったんですのね？　私わたくしったら勘違いしてしまいましたわ？」

　リアーヌの発言にレオンが不愉快そうに顔を歪め、それを見たエーゴンが一歩前に足を出そうとした瞬間、フィリップがその間に立ち、リアーヌに向かい眉を下げた。

「ーーリアーヌ嬢、怒りはもっともだと思うが相手はーー」
「……あら？　レオン様ですわよね？　――パトリオート家の」

　フィリップが嗜めるように言葉を口にした瞬間、目を細めたリアーヌが切り捨てるように冷たい言葉で遮った。

（――出来るもんなら反論してみやがれ！　なーにが『謝罪しよう』だ！　さっさと謝れよ！　頭の一つでも下げろ‼︎　顔が良くて王子だからってなんでも許されると思うなよバーカッ‼︎）