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「……なにかしら?」

 ビアンカのそんな呟きと同時に、廊下近くや教室の後ろに控えていた各家のお付きや護衛たちが、情報収集のため動き出した。

「ーーこの学科でこんな騒ぎが起こるなんて……」

 レジアンナが表情をさらに歪めて苦々しげに呟く。

 ーーレジアンナがこんなことぐらいで思わず不機嫌になってしまうほどには、この“教養学科”という場所はこの国の未来を支えるであろうエリートばかりが集まっていたのだ。
 派閥争い等があったとしても、こんな風に周りの注目を集めてしまうような騒ぎはまず起こらなかった。
 廊下で誰かが誰かとぶつかったーー程度の話題でもウワサになってしまうほどには、トラブルなど起こらなかった。
 おしゃべりが盛り上がったとしても、あくまで人の目を気にしつつ、男子生徒がたまにじゃれ合いをすることもあったが、それとて本人たちは周りにどう思われているかを計算しているのが普通なのだ。

 入学したての頃はたまに派閥争いで“いたずら”が行われることもあるが、そのあたりは貴族のメンツが関わっていることなので、口を挟むような愚か者はいない。
 ーーそもそも誰がやったかなんて分からないことなのだ。
 そういったことは証人も証拠も残さないことが基本なのだから……
 ーーしかし大体の者たちは、どこの家の指示なのか……程度のことは察しがついていたのだが……

「ーー失礼いたします」

 そう言いながらミストラル家の使用人がレジアンナのそばにひざまずいた。
 その姿にチラリと視線を向けながら「なにかありまして?」と短くたずねるレジアンナ。

一学年いちがくねんの教室でかの方が少々……」
「ーーまたあの方なの……」

 吐き捨てるようなその声色に、同席していた友人たち、そしてビアンカやリアーヌたちまでもが、不用意にその怒りを買ってしまわないように、そっと顔を背けた。

「関わっている事は間違いございません」
「ーークラリーチェ様は?」
「動揺なさっているように見受けられましたが、シャルトル家の方々やパトリオット様がおそばにおられましたので……」
「ーーそう。 後で詳細が聞きたいわ」
「かしこまりました」

 そう言い終わると、同席していた友人たちーーつまりリアーヌたちに一礼してから、キビキビとした態度で定位置へ戻っていった。

「ーー……特別製が聞いて呆れましてよ」

 地の底を這いずるかのような低い声がレジアンナの口から漏れ、そこまで大きくないはずのその声は、奇妙なほどに教室の中に響き渡った。

「……レジアンナ、いいかな?」

 そう言いながら近づいてきたのはフィリップだった。
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