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 リアーヌとて正解のやり方など分からなかったが、今の自分に求められているものがゼクスを通常の状態に戻すべく、慰めることなのだと理解して行動した結果があの言動だった。

 母であるリエンヌやザームは、なにも言わずにリアーヌの好物を作ってくれたり譲ってくれたりしてリアーヌを慰めるため、この場では父サージュのやり方しか参考にならなかったのだ。

「ふふっ……子爵らしいね? ーー……その時のリアーヌはなに拗ねてたの?」

 ゼクスに尋ねられリアーヌは記憶を探るように首を傾げた。

「あー……確か、ツバメの巣立ちが見られなかった……とかだった気がします」
「ツバメかぁ」
「昔住んでたトコの軒先に巣を作った親子がいて、私はその子供たちが巣立つところを見るの、楽しみにしてたんですけど……朝早すぎて私は起きていなくって……ーーザームは見たのに……っ!」
「あー……」

 リアーヌの言葉に、ゼクスは同情的な声で相槌を打つ。

(ーー思い出したらまた腹が立ってきたっ!)

「大体! ザームはリアルラックが高いんですよっ! だからいつも私は損ばっかりで……」
「おぅ……」
「おやつだってザームはたくさん食べても怒られないのに……」
「……あー、リアーヌー?」

 独り言のようにぶちぶちと弟に対する不平不満を語り始めたリアーヌ、そしてゼクスは笑いだすのを堪えながら遠慮がちに声をかけるゼクス。
 しかしリアーヌの愚痴はまだまだ留まることを知らなかった。

「なのにあの子ったらいっつも私のおやつ取って!」
「ーーよぉーし、よぉーし」

 ゼクスは笑いを堪えたような声色でそう言いながら、リアーヌの背中や頭を撫でた。
 リアーヌはからかわれたと感じたのか、子供扱いされたような気がしたからなのか、面白くなさそうに唇を尖らせた。

「……その程度で止めてください。 あーあー……髪が乱れて……」

 そう言いながらオリバーがリアーヌの髪を直し始め、それを見たゼクスはふふっと笑いながらリアーヌから手を離した。

「……もう平気ですか?」
「ーーうん。 補給完了」
「私は栄養素だった……?」

 眉をひそめるリアーヌにクスクスと上機嫌に笑ったゼクスは、そっとリアーヌの頬に手を添え、真剣な顔つきでリアーヌを見つめた。

「ゼクス、さま……?」
「ーー信じて?」
「……え?」
「俺はリアーヌと幸せになりたいんだ……」

 そう言いながら両手でリアーヌの顔を包み込むと、そっと自分の顔を寄せーー

「ひぁ……」

と、いうリアーヌの小さな声と共に、ガッと音が聞こえ、その背後から伸びた手がゼクスの顔を掴んで押し戻した。
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