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「…………」
「…………」

 ゼクスの手を借りて席から立ち上がったリアーヌをビアンカが無言でジッと見つめる。
 その視線を受け戸惑うリアーヌだったが、すぐに先ほどの会話を思い出しシャキンッ! と背筋を伸ばした。

「分かればいいのよ」
「うっす!」
「野蛮な返事はやめて」
「……はい」

 そんな二人のやり取りにクスクスという笑い声が漏れ、ゼクスもにこやかに笑いながらリアーヌの背中に手を回した。

「ーー断ってね」

 手を引かれながら耳元で囁かれた言葉に動揺しながらも小さく頷き返すリアーヌ。

(……よく分かんないけど私のミッションは、なにかを断ることっぽい!)

「お待たせしましたね。 ユリア譲」
「全然気にしてないよ!」

 ニコリと笑って答えるユリアにピクリと反応を見せるゼクス。
 触れ合っているリアーヌにはその反応がよく伝わってきた。

 自分のほうは貴族のご令嬢だからと礼を尽くしているのに、向こうからは平民同士でやりとりをするような言葉、それも敬う気持ちのかけらもないような対応をされ、機嫌を損ねているようだった。

「……こちらは私の婚約者、リアーヌ・ボスハウト様でございます。 リアーヌこちらは……」

 と、ゼクスがユリアよ紹介を始めようと手で差した瞬間、ユリアがズイッと一歩前に踏み出てリアーヌたちを見据えたまま、よく通る明るい声で言い放った。

「ユリア・フォレステルと申します!」

 直後に背後から感じた騒めきは、素知らぬ態度でこのやり取りに耳を澄ませていたクラスメイトたちのものなのだろう。

(……あれ? これ厳密には私紹介されていないような……? いやでもここでぐじぐじ言うのもなんか性格悪いとか思われそうーーよし! すっ飛ばそう!)

 貴族階級の者たちには“知らない相手に話しかけてはいけない”という絶対的な常識が存在した。
 もちろんこれは建前であり、もっと人目の少ない場所や仮面舞踏会などでは無いにも等しい常識だったが、こんな場所で間に入ったゼクスがいたにも関わらず自分で名乗りをあげてしまったユリアに、リアーヌはな対応をすぐさま諦めた。

(えーと……相手が先に名乗っちゃって、でもこっちは精一杯の礼を尽くしたんですよアピールがしたい時は……ーーまず首を少し傾けて、口角を引き上げるーー歯は見せない! そして軽く膝を折ってちょっとだけ頭を下げてからのキープッ!)

「わざわざご丁寧に恐れ入ります。 リアーヌ・ボスハウトでございます」

(1、2、3! 膝伸ばして胸も張る、頭も戻して……口角は上げるっ‼︎ ーーどう⁉︎ 我ながら完璧な対処だったと思うけど⁉︎)
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