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「ーー細けぇことは置いときましょうや!」

 ヘラリと調子よく笑った村人がそういい、周りもその言葉に乗るように口々に賛同していく。
 
「……ご婦人方がメインですからね? 未婚者ばかりの依頼はリアーヌの望みと反しますからね⁇」

 呆れたような表情でしっかりと釘を刺すゼクス。
 村人たちはその言葉にヘラリと笑いながらも、互いに視線を交わし合い、そっと首をすくめるのだった。

「重ねて言いますが、先程説明した学校を作るので、これまでよりはご婦人方の予定が空く、その空いた時間で仕事をしてくれるなら今の人手不足の解消に一役買ってくれるかもしれないーーという話ですからね?」
「……初めは未婚者でも嫁になりゃ……」
はえぇか、おせぇかの違いだよなぁ……?」

 未婚の息子たちを持つ親たちは、諦めきれずにそんな話をコソコソと言い合うが、ゼクスにギロリと鋭い視線を向けられてその口を閉ざす。
 しかし、その顔に明確な不満の色を読み取ったゼクスは、ちろり……と集まった村人たちに視線を走らせる。
 そして、そんな不満を抱えた村人たちが、自分が想像している以上に多いことを把握したゼクスは、ため息をつきながら言葉を続けるのだった。

「……独身の者に限り、この村以外の者でも登録することが出来るようにしておきますから」
「おおっ⁉︎」
「外からの嫁っこか! また人が増えるな?」
「来るか……?」
「……せめて山の麓まででもちゃんとした道がありゃなぁ……?」

 ゼクスの言葉に喜び、口々に好き勝手なことを言い出した村人たちは再び顔を見合わせると、ゼクスに向かって声を揃えた。

「ーー男爵様、セハの港からの道さっさと通してくださいよ……」
「ーー俺だって早く通したいんですけどね?」

(みなさん村でのお仕事に熱心で、労働納税は最低限しかやってくれないからじゃないですかねぇ⁉︎ 普通に作業員募集しても集まりが悪いですし⁉︎)

 そんなゼクスの内心など知らない村人たちは、まだ見ぬ未来を思ってはしゃぎ合う。

「道が出来たら、王都からの嫁っこも来るかも知れねぇな⁉︎」
「お嬢みてぇに優しい娘がいいな?」
「だなぁ。 よく笑ってよく食って……よく遊んで、ってかぁ?」

 村人たちはリアーヌの行動を思い返し、茶化すようにゲラゲラと笑い合う。
 しかしそれは悪意のあるものではなく、愛情に溢れたものだった。

「……早く道引いてほしいなら、冬の間だけでも仕事引き受けてくれたっていいんですよー……?」

 話題に上がったのが自分の婚約者であることに、顔をニヤけさせたゼクスは、そのままの表情で村人たちに協力を依頼する。
 言葉としては茶化していたが、ゼクスの切なる願いでもあった。

 ーー村人たちには苦笑いで躱されてしまったのだったが……
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