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 そんなリアーヌを見つめ、ニヤリと人の悪い微笑みを浮かべたゼクスは、立ち上がり大袈裟な仕草でダンスを申し込む時のように手を差し伸べながらのおじぎを披露する。

「ーー受け取っていただけますか?」

 そう言いながら少し顔をあげ、リアーヌの反応を楽しんでいる。
 そんなゼクスの態度に少し唇を尖らせたリアーヌは、大きく息をつき少し冷静になると、ツンッとアゴをあげ、わざと勿体ぶるような仕草でゼクスの手に自分の手を重ねた。

「……そこまでいうのなら?」
「光栄でございます」

 そう返したゼクスは、リアーヌの手を取り、グイッと自分の方へ引き寄せる。

 それはダンスの時であるならば、座っている女性を立ち上がらせる方法の一つではあったのだが、行儀の良い方法ではなくーーよって、社交界に滅多に顔を出さないリアーヌが教わるわけもない方法だった。
 それによりなにが起こったかというとーー

「ぅわ⁉︎」
「おっと⁉︎」

 リアーヌは立ち上がりはしたがバランスを崩してしまいタタラを踏み、ゼクスはリアーヌが転んでしまわないように助けようと手を回しーー
 二人はダンスの時のように密着し、ダンスの時よりもずっと至近距離で顔を見合わせることになった。

「ひぁ⁉︎」
「ぁ、ごめ……」

 真っ赤になった二人は、バッと顔を離すが、お互いの体からは手を離そうとしなかった。
 それは離すとまたバランスを崩してしまう危険があったからかも知れしれないし、ダンスで慣れた距離感だったからかもしれない……もしかしたら、互いに話したくないだけだったのかもしれないが……

「ーー少々距離が近すぎるように思われますが?」

 そのままの体勢で、頬を染めながらチラチラとお互いに視線を向け合う二人に、いつもより何段も低いアンナの声がかけられた。
 その言葉に自分達の距離をようやく認識した二人は、パッと手を離すと、適切な距離をとった。

「ーーこれは失礼を」
「……あの、ごめんなさい」

 そしてバツが悪そうに二人は、アンナに向かって謝罪の言葉を口にする。
 アンナはそのことにさらに眉間に皺を寄せるが、さらに身を小さくしてしまった主人に免じて、それ以上の小言を口にすることは控えたようだった。

 そのリアーヌはゼクスの仕事の邪魔にならない程度の会話を楽しむと、子供たちへの報酬を考えるべく集会場をあとにしたのだった。

(……もういっそ、新しい甘いお菓子作り出したほうが手っ取り早い説……。 この世界には無くて私が知ってるもの……ーーショートケーキが無かったんだから、ケーキはわりと狙い目な気が……)
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