478 / 1,038
478
しおりを挟む
「なんでぇ? 嬢は魚も好きかー?」
酒を片手に上機嫌な男性がリアーヌに近づきながらたずねる。
この男性とは初対面であるはずなのだが、リアーヌはごくごく自然に「うん!」と大きく頷いていた。
「あとエビとカニも好き!」
「そうか、そうか! よぅし、じゃあおっちゃん特製のあら汁振る舞ってやろうなぁ?」
その言葉にリアーヌはピタリと動きを止める。
リアーヌの代わりにその男性に声をかけるのは集まった人々だった。
「良いねぇ!」
「寒い日はあれが一番なんだよなぁー」
そして、男性は上機嫌でテオに話をつけにいく。
「テオ、コンロ貸してくれやー」
「かまわねぇが、鍋も器もそっちで用意しろよ?」
「分かってるってぇ。 おいオメェら器とーーあと中身もなんか持ち寄れやー。 今日は気分がいいからタダで配ってやらぁな!」
男性のその声に、広間中が沸き立つ。
そしてあら汁の準備に取り掛かるのだった。
(ーーえ、あら汁ってあのあら汁? 魚の出汁に生姜がきいてて、ネギなんかちらして食べる、あのあら汁よね? え、あれって……)
「ーーリアーヌ大丈夫? あら汁ってのがどんなのかは分からないけど、無理して食べなくてもいいんだよ……?」
リアーヌの様子がおかしいことに気がついたゼクスは、気づかうように声をかけた。
「ーー食べますよ⁉︎」
「えっ」
「だってお味噌汁ですよ⁉︎」
「おみ……え?」
困惑するゼクスだったが、詳しい話を聞く前に、近くにいたご婦人がその会話に口を挟んだ。
「あら嬢、味噌なんて知ってるの?」
「はい! ……食べたことはないですけど……でもきっと好きです!」
(昔は大好きでした! 今もとっても食べたいです!)
「ここいらのは正真正銘アウセレ産だからね、しかも品質も折り紙付きさ! たーんとお食べ?」
「はい!」
「よぅし! じゃあおばちゃんもとっておきのエビを差し入れてやろうかねぇ」
「ふおぉぉぉぉ⁉︎」
テンションの上がりきったリアーヌの口から奇声が漏れ出る。
「ーーお嬢様?」
「あ……ごめんなさ……」
すぐさまアンナからの注意が飛び、ビクリと肩を震わせるリアーヌに周囲から再びクスクスという忍び笑いが巻き起こるが、今回のそれは前回のそれとは意味合いが違うようだった。
「ぶはっ ーー困ってるわけじゃないならよかったよ?」
思わず吹き出してしまったゼクスも、表情を取り繕いながら言うが、どことなくわざとらしい態度であると言うことが、リアーヌにもよく分かるほどだった。
「むぅ……」
頬を膨らませ不機嫌であることを隠そうともしないリアーヌの態度に、ゼクスは再び吹き出した。
酒を片手に上機嫌な男性がリアーヌに近づきながらたずねる。
この男性とは初対面であるはずなのだが、リアーヌはごくごく自然に「うん!」と大きく頷いていた。
「あとエビとカニも好き!」
「そうか、そうか! よぅし、じゃあおっちゃん特製のあら汁振る舞ってやろうなぁ?」
その言葉にリアーヌはピタリと動きを止める。
リアーヌの代わりにその男性に声をかけるのは集まった人々だった。
「良いねぇ!」
「寒い日はあれが一番なんだよなぁー」
そして、男性は上機嫌でテオに話をつけにいく。
「テオ、コンロ貸してくれやー」
「かまわねぇが、鍋も器もそっちで用意しろよ?」
「分かってるってぇ。 おいオメェら器とーーあと中身もなんか持ち寄れやー。 今日は気分がいいからタダで配ってやらぁな!」
男性のその声に、広間中が沸き立つ。
そしてあら汁の準備に取り掛かるのだった。
(ーーえ、あら汁ってあのあら汁? 魚の出汁に生姜がきいてて、ネギなんかちらして食べる、あのあら汁よね? え、あれって……)
「ーーリアーヌ大丈夫? あら汁ってのがどんなのかは分からないけど、無理して食べなくてもいいんだよ……?」
リアーヌの様子がおかしいことに気がついたゼクスは、気づかうように声をかけた。
「ーー食べますよ⁉︎」
「えっ」
「だってお味噌汁ですよ⁉︎」
「おみ……え?」
困惑するゼクスだったが、詳しい話を聞く前に、近くにいたご婦人がその会話に口を挟んだ。
「あら嬢、味噌なんて知ってるの?」
「はい! ……食べたことはないですけど……でもきっと好きです!」
(昔は大好きでした! 今もとっても食べたいです!)
「ここいらのは正真正銘アウセレ産だからね、しかも品質も折り紙付きさ! たーんとお食べ?」
「はい!」
「よぅし! じゃあおばちゃんもとっておきのエビを差し入れてやろうかねぇ」
「ふおぉぉぉぉ⁉︎」
テンションの上がりきったリアーヌの口から奇声が漏れ出る。
「ーーお嬢様?」
「あ……ごめんなさ……」
すぐさまアンナからの注意が飛び、ビクリと肩を震わせるリアーヌに周囲から再びクスクスという忍び笑いが巻き起こるが、今回のそれは前回のそれとは意味合いが違うようだった。
「ぶはっ ーー困ってるわけじゃないならよかったよ?」
思わず吹き出してしまったゼクスも、表情を取り繕いながら言うが、どことなくわざとらしい態度であると言うことが、リアーヌにもよく分かるほどだった。
「むぅ……」
頬を膨らませ不機嫌であることを隠そうともしないリアーヌの態度に、ゼクスは再び吹き出した。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる