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冬休暇が始まり、幾日か過ぎた頃ーー
リアーヌは予定通り、ゼクスの領地視察に付き合い、サンドバルへの旅路についていた。
今回もセハの港で一泊する予定だったので、リアーヌはその道中、耳にタコができるほど「生物は禁止です!」とアンナから言い渡されていた。
(……新鮮なのは食べたってなんともないのに……)
そう心の中では反論していたリアーヌだったが、それを口に出す勇気は無いようで、かすかに唇を尖らせながら窓の外に視線を移すだけだった。
◇
「待ってたぜ、嬢ちゃん!」
「お久しぶりです!」
親しげな様子でリアーヌに話しかけてきたのは、真珠商のテオだった。
「おーおーちょっと見ねぇ間に別嬪さんになったなぁ!」
「えー? 分かりますぅ⁇」
テオの軽口に合わせるように、リアーヌも頬に手を当てて身をくねらせて喜んでみせる。
この会話が、ボスハウト家とテオの店の間で行われている、真珠の粉の売買契約のことが含まれていると思い至ったためだ。
テオの発言には自分の店の品の自慢も含まれていて、リアーヌも自分で実感出来るほどに透明感の増した肌に感謝する気持ちも含まれていた。
リアーヌの答えに満足そうに頷いたテオは豪快な笑顔を浮かべた。
「とびっきりの海の幸と上等な真珠用意してあるから、今回も楽しんで行ってくれよ?」
「はい!」
(たこ焼きが用意されていると聞き及んでおりまするっ!)
「わー……幻聴が聞こえてくるようだねー……」
鼻息も荒く前のめりになりながら答えるリアーヌの隣で、揶揄うように呟くゼクス。
(なにやら失礼な声が聞こえたような気もしますが、そんなものは完全スルーです。 ーー私、ちゃんと気をつけて返事したもん)
呆れたように肩をすくめるゼクスと、そんなゼクスをジロリと睨みつけるリアーヌ。
そんな二人のやり取りにケラケラと笑い声を上げたテオは、挨拶もそこそこに、二人をーー主にリアーヌをーー歓迎するために用意した場所へと二人を案内したのだった。
「わあ! いい匂い!」
先導するテオの後ろに続いて少し歩いたリアーヌは、漂ってきた香ばしくも美味しそうな匂いに瞳を輝かせた。
「本当だね?」
駆け出して行きそうなほどテンションの上がっているリアーヌの手をさりげなく押さえつけながらも、ゼクスもその香りに鼻をひくひくと動かした。
ぐぎゅるぅ……
「…………」
「…………」
リアーヌの腹部辺りから聞こえてきた奇妙な音に、リアーヌはそっとお腹を押さえ、ゼクスは唇を真一文字に噛み締める。
無言になってしまった二人に気を遣ったテオがわざと明るい声で二人に話しかける。
リアーヌは予定通り、ゼクスの領地視察に付き合い、サンドバルへの旅路についていた。
今回もセハの港で一泊する予定だったので、リアーヌはその道中、耳にタコができるほど「生物は禁止です!」とアンナから言い渡されていた。
(……新鮮なのは食べたってなんともないのに……)
そう心の中では反論していたリアーヌだったが、それを口に出す勇気は無いようで、かすかに唇を尖らせながら窓の外に視線を移すだけだった。
◇
「待ってたぜ、嬢ちゃん!」
「お久しぶりです!」
親しげな様子でリアーヌに話しかけてきたのは、真珠商のテオだった。
「おーおーちょっと見ねぇ間に別嬪さんになったなぁ!」
「えー? 分かりますぅ⁇」
テオの軽口に合わせるように、リアーヌも頬に手を当てて身をくねらせて喜んでみせる。
この会話が、ボスハウト家とテオの店の間で行われている、真珠の粉の売買契約のことが含まれていると思い至ったためだ。
テオの発言には自分の店の品の自慢も含まれていて、リアーヌも自分で実感出来るほどに透明感の増した肌に感謝する気持ちも含まれていた。
リアーヌの答えに満足そうに頷いたテオは豪快な笑顔を浮かべた。
「とびっきりの海の幸と上等な真珠用意してあるから、今回も楽しんで行ってくれよ?」
「はい!」
(たこ焼きが用意されていると聞き及んでおりまするっ!)
「わー……幻聴が聞こえてくるようだねー……」
鼻息も荒く前のめりになりながら答えるリアーヌの隣で、揶揄うように呟くゼクス。
(なにやら失礼な声が聞こえたような気もしますが、そんなものは完全スルーです。 ーー私、ちゃんと気をつけて返事したもん)
呆れたように肩をすくめるゼクスと、そんなゼクスをジロリと睨みつけるリアーヌ。
そんな二人のやり取りにケラケラと笑い声を上げたテオは、挨拶もそこそこに、二人をーー主にリアーヌをーー歓迎するために用意した場所へと二人を案内したのだった。
「わあ! いい匂い!」
先導するテオの後ろに続いて少し歩いたリアーヌは、漂ってきた香ばしくも美味しそうな匂いに瞳を輝かせた。
「本当だね?」
駆け出して行きそうなほどテンションの上がっているリアーヌの手をさりげなく押さえつけながらも、ゼクスもその香りに鼻をひくひくと動かした。
ぐぎゅるぅ……
「…………」
「…………」
リアーヌの腹部辺りから聞こえてきた奇妙な音に、リアーヌはそっとお腹を押さえ、ゼクスは唇を真一文字に噛み締める。
無言になってしまった二人に気を遣ったテオがわざと明るい声で二人に話しかける。
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