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「ーー降爵夫人に連絡を」
「かしこまりました」

 フィリップの言葉にラルフが小さく頷いて、そそくさとその場を後にした。

 その背中を視線で追っていたリアーヌはこちらに視線を送っていたビアンカと目が合う。
 そして二人は無言で見つめ合うと、唇の端だけを引き上げ、眉や肩の少しの動きで話し合う。

『フィリップ様やる気だねぇ?』
『スカーレット物語が盛り上がるわね?』

 少しの仕草からお互いがお互いになんと言っているのかを理解し、ニヤリと笑い合う。

(レジアンナがスカーレット物語にかける情熱ってばもの凄いんだって。 作家の人はもう何回も何回も原稿の書き直しをさせられているらしいしーーレジアンナたちの話を聞く限りじゃ、レジアンナやレジアンナのお母様、フィリップのお母様を中心に、使用人や友人たちまで加わって、寄ってたかって要求と注文を突きつけられ続けているんだとか……作家さん、絶対泣いてるでしょ……)

 呆れたようにクスリと笑い、ビアンカと肩をすくめ合いながら、リアーヌはすっかり冷めてしまった紅茶を口に含んだのだったーー



 学園主催のクリスマスパーティに向けて猛特訓の行われている、ボスハウト邸のダンスホール。
 リアーヌはその少しの休憩時間にソファーにかけ窓の外を眺めながら、ため息を噛み殺すようにゆっくりと息をついた。

(もうすぐクリスマス……ーーつまりは年末……主人公は確実に来年入学してくるーーまだ噂にも聞かないけど、でも主人公がギフトを授かるのは間違いなくて……ーー主人公は誰と恋愛するんだろう……ーーそれがゼクスだったとしたら……どうなっちゃうのかな……? いやまぁ、ゼクスルートに入ったら間違いなく破談になるとは思うんですけどー。 でもこの家には絶対迷惑かけないようにしなきゃ……ーー私は絶対に悪役令嬢になんかならないんだからっ! ーーわりとそこそこの条件で円満破談受け入れるから、そうなったらちゃんと相談してよねっ⁉︎)

「お嬢様、休憩はこのあたりで……」

 リアーヌのダンスの練習に付き合っているメイドが静かに、しかし有無を言わせない圧を放ちながら話しかける。
 そんなメイドの言葉に、いまだに汗の引かないリアーヌは、キュッと唇を噛み締めながら悪あがきをするようにゆるく首を振りながら口を開いた。

「や、まだ未来について考えることがたくさんありますので……」

 そんなリアーヌにメイドはニコリと笑いながら言葉を重ねる。

「ええ。 未来の為に大切なレッスンでございますよ」

 笑顔のメイドにリアーヌは顔を思い切りしかめながら不満を口にした。
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