上 下
446 / 1,038

446

しおりを挟む
「ーー例外とまではいかないが……」

 納得がいかなそうに肩をすくめる夫にアンナはその目を吊り上げる。

「貴方、誰の婿だかお忘れ? それとも一蓮托生や連帯責任って言葉を知らないのかしら⁇」

 そう言いながら呆れたように腰に手を当てるアンナーーこれはアンナなりに、オリバーがこの先、この家でうまくやっていけるように……と言う配慮でもあった。
 例え正論だったとはいえ、オリバーはこの家の執事や古参の使用人たちに否を叩きつけた。
 その事実がこの先どのような問題に繋がるか分からなかったからこそ、アンナはオリバーを例えヘリクツであろうとも口でやり込め、叱咤して見せたのだ。

 正しいことを言っていれば、忠実に職務をこなしていれば、他の者との間に軋轢が産まれないなどと言うことは無い。
 アンナにはボスハウト家の使用人たちは、特に結束が硬いと言う自負もあった。
 だからこそ、オリバーひとりを悪者にしないために、こんな茶番めいたやりとりをふっかけたのだった。
 ーー心のどこかには、散財言われたんだから、少しぐらい言い返してやりたい! と言う欲求も、あるにはあったようだったが……

「ーーわぁー……とんだ家に嫁いじゃったなぁ……?」

 そんなアンナの意図に気がついたのか、大袈裟に顔を顰めて見せ、他の使用人たちからクスクスと笑われていた。
 そんな光景を見ていたアンナは、フンッと一つ大きく鼻を鳴らすと、オリバーから視線を外し、ヴァルムに向かって姿勢を正した。

「ーーそれとヴァルム様?」
「……なんだ?」
「この程度のことでお嬢様を見捨てようとした罰として、歩けなくなろうとも、目が見えなくなろうとも、ボスハウト家に仕え続けていただきますのでそのおつもりで……」

 そう言いながら深々と頭を下げるアンナ。
 そんなアンナの後頭部を呆然と見つめていたヴァルム、頬をひきつらせながらポソリと呟いた。

「……お前、最近ますますハンナに似てきて……」

 そう呟きながら、ヴァルムは今は大奥様に仕えている妻のことを思い出していた。

「ーーそれ以上言うと母さんに言いつけるわよ」
「……やめておくれ」

 いつになく弱々しいヴァルムの声に、そして滅多に見られない、ヴァルムたちの親子としてのやりとりに、使用人たちは視線を逸らしつつもクスクスと笑いをこぼす。
 そんな中、一人苦笑いを浮かべたオリバーはパンパンと手を叩きながら口を開いた。

「えー……なんだか俺の未来が垣間見えたところで、そろそろお嬢様のレッスンの日程を組み直しましょうかー?」

 その言葉にクスリと笑いを漏らしながらも、気を引き締め治す使用人たち。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...