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 流石にそんな説明は家の中だけでしかしていないサージュだったが、人違いが発覚した際「ハゲはハゲでもこのハゲじゃねぇんだよなぁ……」などと本人を目の前に言わない保証はどこにも無く、実際、何度か危ない場面に出くわしているアストは、その危険性にサァ……と顔色を青ざめさせた。

「貴方はは旦那様に同行して王城にも行っているはずなんですがねぇ……?」
「だからって旦那様の言い回しを正確に理解できる自信なんか無いですよ! 王城に出入りする方々に、ハゲがどれだけいると思ってるんですか⁉︎」
「ーー旦那様に毒されすぎです。 言い方を考えなさい」
「……少々額の広い方々は、大変多いと存じ上げます……」

 そう言いながら頭を下げるアストはを見つめ、ヴァルムはフン……と小さく鼻を鳴らしてからゆっくりと口を開いた。

「……ーーどうして最近の若者は、こうもやりもしないうちから泣き言ばかり……」

 そんなボヤキに、侍女が困ったように笑いながら話しかけた。

「私たちには、まだまだヴァルム様のお力が必要なんです」
「ーー全く……情けない……」

 そう答えながら頭を抱えるようにして俯くヴァルムの声はかすかに震えていた。
 ーーその言葉は、周りの者たちに対するものなのか、自分自身に対するものだったのか……その答えはヴァルム自身でも定かでは無いようだった。

「……情けなくて結構じゃないですか? お仕えすべき方々が揃いも揃ってるんですし……ーーそこにお仕える我々が常識なんてものに囚われるわけにはいかないでしょう⁇ 臨機応変を心がけませんと……」
「……ーー独創的であることは間違いありませんが……」

 オリバーの言葉に、ため息混じりに答えたヴァルムは、そのままゆっくりと顔を上げ、部屋の中に集まった使用人を見回していくーー
 そして一つ大きく息をつくと、表情を引き締め直し、声を張って言い放った。

「ーーそれでは、お嬢様には申し訳ありませんが、もうしばらくは我々の夢に……ーー罪にお付き合いいただきましょう。 各々、誰一人欠けることなく肝に銘じ、今まで以上に誠心誠意職務に当たるように」

 その言葉に使用人たちは声を揃えて「はいっ!」と答えたのだった。

「ーー分かりましたねオリバー」
「えーーまぁ……誠心誠意お仕えしますけど……」

 ヴァルムから、念を押されるように言われた言葉にオリバーは少々納得がいかなうで(俺はその事実を指定した側なんですけどね……)と、心の中でボヤキながら言葉を濁した。

「ーー貴方、まさか自分は例外だとでも思っているのかしら?」

 そんなオリバーに声をかけたのは、妻であるアンナだ。
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