上 下
384 / 1,038

384

しおりを挟む


「それで髪をお切りになられたんだけど……ーー短い髪のフィリップさまも格好良くってぇー! わたくしったら恥ずかしくなってしまって、まともに目も見つめられなくなってしまってね⁇」
「うんうん」
「そしたらねっ! フィリップ様がわたくしの手を取ってね? ーーこうよ、こう取ったの!」

 レジアンナはそう言いながら、リアーヌの両手を自分の手で包み込むように握りしめる。

「なるほどなるほど?」
「それでもうつむく私に言ったの!」
「ほうほう!」
「ーーなんで言ったと思う⁉︎」
「ナンダロウナー? りあーぬ、全然ワカンナイナー⁇」
「こう仰ったのよっ!『今日は私を君の瞳に映してはくれないのかい? 愛おしいスカーレット……』ーーってぇぇぇ‼︎」
「うわぁ、スカーレットスカーレット」

 リアーヌはレジアンナがペシペシと叩いてくる腕を庇うように身を捩り、貼り付けた笑顔のまま相槌を打つ。

(ーーお茶会って、もっとこう……優雅でお上品なものだと思ってたんだけど……ーーこんな会話で良いなら、私だっていくらだって出来ちゃいますけどね⁉︎)

 ーー今日は、ゼクスに『座っているだけで良いから……』と言われ、パワーバランス的にも開かないわけにはいかなかった、ラッフィナート男爵家主催のお茶会の日だ。
 ラッフィナート邸の美しい庭に、沢山のテーブルとイスを並べ、テーブルの上には色とりどりの花々と菓子が、これでもかと飾り並べられている。

「ちゃんと聞いて!」
「聞いてますぅー。 なんならこれから先のこと全部代わりに喋れるくらいにはちゃんと聞いてるんですぅー!」

(……レジアンナ、ちゃんと解ってる? これってラッフィナート男爵家の主催のお茶会だから、私がホストなんだ! でも最初の挨拶が終わってからずっと貴女とお話ししているのっ‼︎ なんでなんだろうね⁉︎ 不思議だねっ⁉︎)

「ビアンカ! リアーヌがヒドイのよ‼︎」

 気分を害してしまったのか、レジアンナは頬を膨らませながら隣のテーブルに座って談笑しているビアンカに向かって言った。
 そんな様子のレジアンナに声をかけられたビアンカだったが……そのテーブルに同席していた少々たちも、更にはレジアンナの声が聞こえたであろう全ての参加者たちも、誰一人は慌てることはなく、ニコリと対外的な笑顔を浮かべてチラリと視線を流すと(ああ、またか……)とでも言いたげな空気を醸し出しながら、表面上はにこやかに、それぞれの会話に戻っていったーー

「そうなんですのね。 リアーヌヒドイわよ」

 そしてビアンカは、レジアンナにコクリと頷くと、もう何度目になるのか分からないほど繰り返した言葉をリアーヌに投げつけたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...