369 / 1,038
369
しおりを挟む
想定通りーーとはいかなかったが、このやりとりで、レジアンナとリアーヌの間にある禍根は無くなったことになる。
フィリップ側の最大の目的を果たしたことにより、サロン内にはゆったりとした穏やかな空気が戻ってきたようだった。
各々が近くに座る友人たちと個別に雑談などを話し始め、そろそろお開きになるのだろうな……と言う空気が漂い始めた頃、同様に少々気を抜いたビアンカがリアーヌに向かってからかうように言った。
「ーー貴女、来年はクラスが違うんだから一人で頑張るのよ?」
「……ビアンカが意地悪言います」
ビアンカの言葉に顔中にシワを刻んだリアーヌはゼクスに向かって告げ口するように訴えた。
「……普通は一人でなんとかするもんなんだけどね……?」
「ーーそうだった……!」
冗談なのか本気なのか、リアーヌは目を大きく見開き、ゆっくりと口を両手で覆い隠しながら、どこか芝居がかった様子で答える。
「おバカ……」
そう言ったビアンカは、カップに手を伸ばしながら小さく首を振る。
「ーー本当に仲のよろしいこと……ーー羨ましいわ……」
ポツリと呟かれたレジアンナの言葉に、部屋の空気がまた緊張感をまとった感覚がした。
レジアンナが言うようにリアーヌとビアンカは多くの令嬢たちが羨むほどに仲が良かった。
口先だけで相手をやり込めたり、言葉尻を捕まえて相手を悪者に仕立てたりするケンカが主流のご令嬢たちにとって、一番恐るべきことは失言であり、二人のように、思ったことをそのまま言い合えるような友人という存在は、その身分が高ければ高いほど得難いものだと言っても過言では無い。
ーーレジアンナには沢山の“友人”がいたのだが、それらはいわゆる“取り巻き”と呼ばれる者たちであった。
レジアンナに疎まれてしまえば、一瞬にしてミストラル家という後ろ盾を無くす彼女たちは、間違ってもレジアンナに気やすい態度などは取らない。
そして自分の地位を高めるため、その足場を固めるためにも“友人”同士でも、こういった気やすい会話を交わし合う者たちはいなかった。
レジアンナの人生においてそれが普通のことであったはずだったのだがーー……
ーーこのように楽しそうな会話や、やりとりを目の前で見せられれば(自分にも……)と羨む気持ちが芽生えてしまうようだった。
「レジアンナ……」
そんな気持ちを理解したのか、隣に座るフィリップは同情的な眼差しをレジアンナに向けてその背中に優しく触れた。
そしてリアーヌたちにとっては、爆弾発言とも言えることを口にしたのだったーー
フィリップ側の最大の目的を果たしたことにより、サロン内にはゆったりとした穏やかな空気が戻ってきたようだった。
各々が近くに座る友人たちと個別に雑談などを話し始め、そろそろお開きになるのだろうな……と言う空気が漂い始めた頃、同様に少々気を抜いたビアンカがリアーヌに向かってからかうように言った。
「ーー貴女、来年はクラスが違うんだから一人で頑張るのよ?」
「……ビアンカが意地悪言います」
ビアンカの言葉に顔中にシワを刻んだリアーヌはゼクスに向かって告げ口するように訴えた。
「……普通は一人でなんとかするもんなんだけどね……?」
「ーーそうだった……!」
冗談なのか本気なのか、リアーヌは目を大きく見開き、ゆっくりと口を両手で覆い隠しながら、どこか芝居がかった様子で答える。
「おバカ……」
そう言ったビアンカは、カップに手を伸ばしながら小さく首を振る。
「ーー本当に仲のよろしいこと……ーー羨ましいわ……」
ポツリと呟かれたレジアンナの言葉に、部屋の空気がまた緊張感をまとった感覚がした。
レジアンナが言うようにリアーヌとビアンカは多くの令嬢たちが羨むほどに仲が良かった。
口先だけで相手をやり込めたり、言葉尻を捕まえて相手を悪者に仕立てたりするケンカが主流のご令嬢たちにとって、一番恐るべきことは失言であり、二人のように、思ったことをそのまま言い合えるような友人という存在は、その身分が高ければ高いほど得難いものだと言っても過言では無い。
ーーレジアンナには沢山の“友人”がいたのだが、それらはいわゆる“取り巻き”と呼ばれる者たちであった。
レジアンナに疎まれてしまえば、一瞬にしてミストラル家という後ろ盾を無くす彼女たちは、間違ってもレジアンナに気やすい態度などは取らない。
そして自分の地位を高めるため、その足場を固めるためにも“友人”同士でも、こういった気やすい会話を交わし合う者たちはいなかった。
レジアンナの人生においてそれが普通のことであったはずだったのだがーー……
ーーこのように楽しそうな会話や、やりとりを目の前で見せられれば(自分にも……)と羨む気持ちが芽生えてしまうようだった。
「レジアンナ……」
そんな気持ちを理解したのか、隣に座るフィリップは同情的な眼差しをレジアンナに向けてその背中に優しく触れた。
そしてリアーヌたちにとっては、爆弾発言とも言えることを口にしたのだったーー
8
お気に入りに追加
373
あなたにおすすめの小説

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」


疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる