成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「ーー……実際美味しいのか?」
「……生のエビですか?」

 ふっと沸き起こった好奇心からトビアスはオリバーに質問をぶつけた。
 知的欲求が盛んなこの男ならば、目の前で護衛対象が口にして、なおかつ美味しいと称した異国の食べ物を口にしている可能性は高いとアタリをつけていたのだ。
 その予感は的中していたようで、オリバーは自分からの質問に、気まずそうに鼻をいじっている。
 その姿を見たトビアスは、自分の考えが的中していた満足感からか、ゆったりとした態度でオリバーからの答えを待った。

「……実際、味は悪くはありませんでした」
「悪くないのか……ーーそう言われればあちらの料理自体はこちらの国でも人気が高いのだから、味覚的には変わりはないのか……」
「ーーただ……」

 少し興味を持ったトビアスに向かい、オリバーは言いづらそうに続け、伺うような視線を向けた。
 イヤな予感を覚えつつも、トビアスは視線で話の続きを促す。

「……食感は虫のソレだと感じました」
「…………むし」
「…………はい」
「…………むし?」
「…………大丈夫ですか?」

 何者かに操られた傀儡かのように呆然とした状態でうわ言のように同じ言葉を繰り返すトビアスに、オリバーは少し近寄りながら、心配そうに顔を覗き込むように身を低くした。

「ーーしかし、まぁ……生のエビなど口にする機会はそうそう無い。 加えて二度目は回りとて警戒しているーーその姿を目撃することは無いと思い、検討を続けるのがいいとは思わないか?」

 トビアスは視線を彷徨わせながら、懇願するかのように下手な愛想笑いを浮かべ続けるオリバーに声をかけた。

 この国のこの王城で働く者たちの多くは、幼き頃より訓練を受け、貴き血筋に忠誠を誓っている。
 その忠誠は時に、トビアスのように王族のだれ個人に向けられることはあるが、基本的には王族の血筋全てに忠誠を誓っている。

 ーーしかしながら仕える者の側にも“好み”や“好き嫌い”と言うものは存在する。
 例え国王のお気に入りであったとしても、自分が忠誠誓えないような相手を命をかけて守るような者を見つけることは難しいだろう。

(ーー逆に言うならば、そんな忠誠を誓った者たちが数人いれば、その当時の国王や周りの人間の目を全てごまかし、マルガレータ様のように事故死したと見せかけることも可能なんでしょうが……)

 そこまで考えて、トビアスは再び国王のことを思い、ため息をついた。

(陛下の願いを叶えて差し上げたいが……こればかりは……ーー生のエビを平気で口に放り込むご令嬢を、尊き血をひく王族の一員だと認める者がどの程度現れるか……)
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