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「…………」
「…………」
気まずい沈黙の時間が流れ、トビアスとオリバーは微妙な顔つきのままに見つめ合った。
「……ーーご婦人というのはあれか? 学校を卒業したばかりのーー」
「いいえ。 いわゆるおばちゃんの言動です」
「……リアーヌ様はまだ16歳だぞ……?」
ヒクリ……と頬を引き攣らせるトビアスに、オリバーは苦笑をもらしながら肩をすくめ口を開いた。
「ーー……これに関しては仕方がない部分もあると思います。 ご両親を助けるため、幼少期から大人に混じって働いていたらしいですから……ーーまぁ、耳年増になりやすい環境だったんだと……」
「耳年増……」
トビアスはヒクヒクと頬を引きつらせ続けていたが、オリバーは構わず話を続けた。
「せめて商家や準貴族家のご令嬢程度の言動をしてくれたなら……と嘆かずにはいられません……」
「ーー無いのか……ーーそうか……」
「その……全く出来ない訳ではないというのがまた障害になると言いますか……」
乾いた笑いを浮かべたオリバーにトビアスは無言で続きを促す。
「ーー気合を入れれば出来る時もあるので、あちらが素のお姿なんだろうな……と、簡単に理解できてしまいます」
「ーーその姿が……下町のご婦人か……」
「はい……ーーヴァルム様だったからこそ、理解して差し上げられたんだと……」
「ーー心根はお優しいお方なのだろうが……」
トビアスはそう呟きながらも心の中で(だからと言って下町のご婦人のような娘を王族の一員と認めら忠誠を誓える者たちはどの程度いるのだろうか……?)と悩み、頭を押さえつけるように抱え込んでしまった。
オリバーはそんなトビアスの様子に自嘲気味に肩をすくめると、視線を伏せながら独り言のように話し始めた。
「……正直な所、俺の第一印象も、ヴァルム様も年取って気弱になったんだろうなー……ってなモンでしたよ……ーーイヤむしろ、ヴァルム様から接触禁止命令出されてもなお、心のどこかで影武者かも知れない……って疑ってましたねー」
「そこまでか……」
「ーー食い意地張ってるわ、奇声あげるわ……ーー下町の娘っ子だって、ラッフィナートの坊の隣に立ったら、もう少し淑やかでいますよ」
「……奇声も出すかぁ」
トビアスはオリバーが、聞いたことがないほど情けない声でため息を吐くかのように言った。
「もちろん常日頃じゃありませんよ? けれど、今は感情を押さえつけなくても構わないと判断すればたびたび……」
「そうか……」
ガックリと項垂れてしまったトビアスを少々不憫に感じながらも、オリバーはさらに言葉を続けた。
「…………」
気まずい沈黙の時間が流れ、トビアスとオリバーは微妙な顔つきのままに見つめ合った。
「……ーーご婦人というのはあれか? 学校を卒業したばかりのーー」
「いいえ。 いわゆるおばちゃんの言動です」
「……リアーヌ様はまだ16歳だぞ……?」
ヒクリ……と頬を引き攣らせるトビアスに、オリバーは苦笑をもらしながら肩をすくめ口を開いた。
「ーー……これに関しては仕方がない部分もあると思います。 ご両親を助けるため、幼少期から大人に混じって働いていたらしいですから……ーーまぁ、耳年増になりやすい環境だったんだと……」
「耳年増……」
トビアスはヒクヒクと頬を引きつらせ続けていたが、オリバーは構わず話を続けた。
「せめて商家や準貴族家のご令嬢程度の言動をしてくれたなら……と嘆かずにはいられません……」
「ーー無いのか……ーーそうか……」
「その……全く出来ない訳ではないというのがまた障害になると言いますか……」
乾いた笑いを浮かべたオリバーにトビアスは無言で続きを促す。
「ーー気合を入れれば出来る時もあるので、あちらが素のお姿なんだろうな……と、簡単に理解できてしまいます」
「ーーその姿が……下町のご婦人か……」
「はい……ーーヴァルム様だったからこそ、理解して差し上げられたんだと……」
「ーー心根はお優しいお方なのだろうが……」
トビアスはそう呟きながらも心の中で(だからと言って下町のご婦人のような娘を王族の一員と認めら忠誠を誓える者たちはどの程度いるのだろうか……?)と悩み、頭を押さえつけるように抱え込んでしまった。
オリバーはそんなトビアスの様子に自嘲気味に肩をすくめると、視線を伏せながら独り言のように話し始めた。
「……正直な所、俺の第一印象も、ヴァルム様も年取って気弱になったんだろうなー……ってなモンでしたよ……ーーイヤむしろ、ヴァルム様から接触禁止命令出されてもなお、心のどこかで影武者かも知れない……って疑ってましたねー」
「そこまでか……」
「ーー食い意地張ってるわ、奇声あげるわ……ーー下町の娘っ子だって、ラッフィナートの坊の隣に立ったら、もう少し淑やかでいますよ」
「……奇声も出すかぁ」
トビアスはオリバーが、聞いたことがないほど情けない声でため息を吐くかのように言った。
「もちろん常日頃じゃありませんよ? けれど、今は感情を押さえつけなくても構わないと判断すればたびたび……」
「そうか……」
ガックリと項垂れてしまったトビアスを少々不憫に感じながらも、オリバーはさらに言葉を続けた。
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