成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「……もしかしたら、そんな者がこの世に存在していると、心の底から理解してはいらっしゃらないのやも……」
「ーー王家にお生まれになったお子様方の中にも、そのようにお育ちになるお方が現れますが……ーーやはり血筋は争えませんねぇ……」

 トビアスは困ったようにそう呟くと、ため息と共にヴァルムを見据えた。

「ヴァルム、まずは人を育てると思って、ボスハウト家ではなく王家の血筋に忠誠を誓う者で妥協すべきだ。 人も時間も足らなすぎる……ーーそれに行動力だけで幸せを勝ち取った、あのマルガレータ様のお孫様だぞ? ……私にはある程度は動ける侍女をつけるべきだと思うけれどね? ーーそれに……学園に通う生徒の中にも悪質な者が混じっていると知らないわけでは無いだろう⁇」

 トビアスの言葉にヴァルムはスッと目を細め、ギリリと手を握りしめながら短く答える。

「……二度も煮湯は飲みません」

 明らかに不機嫌になり、怒りを堪えている様子のヴァルムに気をつかいながらも、オリバーが疑問を投げかける。

「ーーあの家のやり方って、結局どんなものだったんですか?」
「……あの小僧が全く同じ手口を使ったのかどうかは不明ですが、ラッフィナートのやり口は、領収書に白紙を混ぜるようですね」

 苦虫を噛み潰したかのように、これでもかというほど顔をしかめたヴァルムがため息混じりに答える。

「……領収書、ですか?」
「契約書を交わす時、なにかしらの理由をつけて金銭を手渡す。 そして無事に契約を交わし終わったのち、先ほどの金銭を受領したというサインが欲しい、サインがあれば経費に回せるーーなどと言いくるめる……その領収書に白紙の紙が混ぜられているようです」

 ヴァルムの言葉に、オリバーも眉間の皺を深く刻み込む。

「サインする相手は契約に注意が向いていて、その契約が無事に結ばれた後ーー……そりゃ気も緩みますよねぇ……?」

 オリバーの言葉に大きく頷きながらトビアスも言葉をつなげる。

「裁判になった時のことも考えているのだろうな? 訴えられたところで、被害者の疑いは契約書にしか無い……ーーそれは間違いなくしていないのだから胸を張って答えられる」
「きっと裁判まで行かないように根回しとかもするんでしょうねー……」

 オリバーは鼻を鳴らしながら、忌々しそうに呟く。
 甘い言葉で騙し合い、言質を取り合う貴族の会話を聞き馴染んでいるオリバーだったからこそ、その騙し討ちで詐欺の手口のような手段でリアーヌが掠め取られたことが、心底面白くないようだった。

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