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 しかもこの書き方は、この国では一般的な表現方法であり、お約束のようなものだったので、リアーヌのように気にする者のほうが珍しく、誰にこのことを話しても、全く理解してもらえなかったのだ。

「ーーしかし、お嬢様が読書を楽しめるのであればそれは僥倖でございます」
「そうだな。 アウセレの本か……王都でも簡単に手に入るよう、取り計らおうではないか」

 その発言にヴァルムは満足そうに頭を下げ、トビアスに感謝の意を示した。
 しかし顔を上げた時にはジロリとオリバーに抗戦的な視線を向けていた。

「ーーそれともう一つ……君の報告には、お嬢様のアンナの二人しか知り得ない情報が多々出てくるようだが……?」

 ヴァルムはその眼差しに疑惑の色をたっぷりと乗せ「まさか盗み聞きや覗きなどしていないだろうな……?」と、圧をかけながら疑問を口にする。
 そんなヴァルムの態度にオリバーは小さくヒョイっと肩をすくめながらことも投げに答えた。

「アンナ殿とは常に情報のやりとりをしていましたので。 殊更リアーヌ様のことに関しては全て把握するようにしていましたよーーたった二人だったんです……なにが命取りになるか分かったものじゃありませんよ」
「ーーそうか……」

 オリバーの説明に、ヴァルムは納得しながらも、苦々しく表情を歪めながら答えた。

「ーーやはり増員は急務であろうなぁ……」
「面目次第も……」

 ヴァルムは申し訳なさそうに頭を下げる。
 自分の力が及ばすボスハウト家が没落してしまった結果、今現在、ボスハウト家に忠誠を捧げる使用人の数が激減してしまったことを恥じていたのだ。

「いやいや、あの状況下で良くぞここまで残ってくれたと思っている」

 トビアスは本心からそう思い、大きく手を動かしてヴァルムの顔を上げさせた。

「ーーしかし、守りが少なすぎるというのは事実……ーーリアーヌ様は来年から侍女同伴での登校を認められる……ヴァルムよ、やはりこちらから何人か連れて行ってはくれんか? ーー全ては王家直系の血筋を守るためと堪えてほしい……」

 リアーヌの通うレーシェンド学園は、全ての生徒に対して、二学年目からの侍女や侍従、護衛同伴での登校が認められていた。

 本当に力のある貴族たちならば、同学年の生徒として侍女や護衛を通わせることもあるが、これは例外として、貴族階級のほとんどの生徒たちが侍女と護衛を付けるーー
 しかし使用人が少ないボスハウト家の現状として、リアーヌにアンナを付けることがすらギリギリの状況だったのだ。
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