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 それはゼクスの声でーー不思議に思ったリアーヌがチラリとそちらに視線を送ると、ゼクスが困ったように笑いながら小さく言った。

「……リアーヌちゃんと分かってる?」
「ーーこういう時は見て見ぬ振りしてあげるんですよ……!」

(そしてお茶会が終わったら、「あそこが違いましてよ」って教えてもらうもんなんだからっ!)

 リアーヌはゼクスに咎めるような視線を向けながら小声で言い返すが、そんなリアーヌの態度に、ゼクスは呆れたように肩をすくめて見せる。

「彼の名誉のために言っておくけど、言い間違いとか勘違いとかじゃないよ?」
「……え?」

 ゼクスの言葉にリアーヌは確認するようにチラリとディーターに視線を送った。
 その視線を受け、ディーターは照れ臭そうな笑顔をリアーヌに向けた。

(ーー……えっ? この照れ笑いは「間違っちゃったぜ、へへへ……」って意味じゃないの⁉︎ ーー大体、あの言葉って領主以外に向けられることなんか無いんだから、絶対間違いじゃん⁉︎ ーー……この辺では同行者にも言ったりするのか……? ーーはっ⁉︎ 前の領主は飛んだクズ野郎だったんだから、訳わかんない持論を展開してこうなった可能性⁉︎ ーーゼロでは無いな……?)

 思っていることがほぼ全て表情に表れているリアーヌを楽しそうに眺めていたゼクスだったが、アンナの笑顔が凍り始めたことに気がつくと、素早い動作でリアーヌの背中に手を添え馬車へと促しながら、違う話題を提供する。

「この視察旅行は楽しめた?」
「ーーとっても!」
「じゃあ、お許しがもらえたら、また一緒に来ようね?」
「はい!」

 元気よく頷き返したリアーヌの答えを聞いていた、ディーターを始めとした見送りに駆けつけていた村人たちの顔が一気に緩み、互いに顔を見合わせながら喜びを分かち合っている。

 沢山の村人たちに見送られながら、リアーヌたちはサンドバル村を出発しーー
 リアーヌはじめての視察旅行がその幕を閉じるのだったーー



 夜も更けきった頃、王城の一室に集まった者たちは、とある報告に耳を傾けていた。

 報告者はオリバー・ハイツマン、臨時でリアーヌの護衛を務めた男性だ。
 そして報告を受けている者が二人、ボスハウト家執事、ヴァルム・ヘイムントと、国王陛下の執事でありオリバーの上司でもある、トビアス・ハイツマンだ。

「ーーそして帰りに寄られたセハの港では、ご友人のために本をお探しになり、ご自身はアウレラの本に興味を示され、何冊か購入されています」

 オリバーの話が一度途切れたタイミングで、ヴァルムが真剣な表情で手を上げ、質問があるという意志を示した。
 オリバーが視線を下げ「どうぞ」と応えると、ヴァルムは大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと口を開く。
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