上 下
294 / 1,038

294

しおりを挟む
 そして最後に仕立て屋は身体の大きな男性に視線を向け、声をかけようと口を開きかけたーー
 しかし大柄な男性は、仕立て屋が何事かを声にする前にリアーヌに向かって淡々とした声で短く言い放った

「ーーアクが強いんだ」

 その言葉に、あちゃあー……と顔をしかめおでこを抑える仕立て屋。
 パン屋たちも顔を見合わせて苦笑いを浮かべあった。

「……エグいってこと、ですかね?」
「ああ。 毒では無い……」
「なるほど……? ーー……食べられるんですか?」
「……方法は知ってる」
「ーーえっ⁉︎ あの実食べられたの⁉︎」

 大柄な男性の答えに仕立て屋がいち早く反応し、後ろから男性に小突かれている。
 そんな二人のやり取りを横目で見ていたリアーヌは小さく肩をすくめながらも、目の前の男性に向かい笑顔を浮かべた。

「実でも構わないと思います。 でも条件は変わりません。 ゼクス様が認める品質であることーーこれをクリア出来ればちゃんと買い取ってもらえますよ」
「……分かった」

 そう答えた大柄な男性はペコ……と、首を動かす程度の会釈をして、自分が元々いたであろう席の方まで戻って行った。

(マイペースぅ……)と苦笑いを浮かべながら、その後ろ姿を見送ったリアーヌの耳に、ヒソヒソとした村人たちの囁き声が聞こえてきた。

「ジャムは一つって……」
「だったら菓子を作った方が良いんじゃ無いか?」
「無難にポプリの方が……」
「おいおい、いくらこの村がデカくねぇとはいえ、どんだけの家族が住んでると思ってんだよ? 花を乾かすだけで良いならみんなが手をだすに決まってんだろ?」
「食品を扱う店だけが食い物に手を出せるなら、そっちの方が競争率は低いに決まってる」
「なんなら、空いた時間にポプリも作れるからなー」
「おいおい二つも狙うつもりかよ?」
「狙うくらい良いだろうよ? どっちも選ばれねぇかもしれねぇんだから……」
「それもそうか……」

(あっ……これ、無用な争いをこの村に持ち込んでしまったのでは……? ーーそうか……ここに集まってる人たちはこの村の代表者ーーって名目のお店の代表者とかその代理だったりばっかりで……つまりはこの人たちのお店で働いてる人たちがいるわけで……ーーこの人たちだけに儲け話の説明しちゃったのマズかったのでは……ーーいや、平等にする方法はまだある、よね……?)

 リアーヌは嫌な予感をヒシヒシと感じながらも、とある一人の青年をジッと見つめながらそう考えていた。

 パン屋のたちに挨拶をしながら席を立ったリアーヌは、すぐさまアンナの元へ行き、もう一枚メモ用紙を受け取ると、すぐさま自警団の代表としてこの場に参加している青年の元へと足を進めたのだったーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...