成り上がり令嬢暴走日記！

292

「ーーお姉さんが本当に、売れるポプリ入れ作れるならもう少し増えるかも？」

　これ以上男性にかける言葉が見つからず、リアーヌは冗談めかした視線を仕立て屋に向け、肩をすくめて見せた。

「……言うねぇ？　やってやろうじゃ無いか！」

　そんなリアーヌからの挑戦めいた言葉に、ニヤリと笑いながら答える仕立て屋。
　
「袋なんか、もっと種類が必要になるよー？」
「……もっと？」
「ーーだって女の子って“あの子と一緒”が以外に嫌いじゃん？」
「……私あたしが子供の頃は“あの子とお揃い”が流行ってた気がするけどねぇ……？」
「それって好きな友達と、でしょ？　気に入らないあの子とお揃いで「ちょっとマネしないでよー」とかゆうイチャモンひたすらウザくなかった⁇」
「あー……あったねぇ？　ーーそうか……そうなってくると本気で種類が必要になるね……⁇」
「ーー腕の見せ所ですねぇ？」

　口元をおさえ、ニヤニヤっと人の悪い笑みを仕立て屋に向けたリアーヌは、からかうようにそう言った。
　そんなリアーヌに仕立て屋は、ぐぬぬ……と、顔をしかめて見せた。

「ーージャムや砂糖漬けもそのくらいの種類を置いてもらえるのかい？」

　仕立て屋との会話がひと段落したところで、パン屋が再びリアーヌに声をかけた。

「あー……ーーどうなんでしょう？」

　その質問を受けたリアーヌは、そのまま顔をゼクスに向けて、首をかしげた。

（……どうなんだろう？　おみやげ屋と考えると……多くても三種類くらい……⁇）

「ーー申し訳ないが、一種類ずつになると思って欲しい。　そして毎回味が変わるような品質であれば、買い取るに値しないと考えているよ」
「一種類……」

　ゼクスの答えに深刻そうな顔つきになったパン屋にリアーヌは（あれ……？）と疑問を感じ首をかしげた。
　
「……でもさ？　おっちゃん作るのパンでしょ⁇」

（だったら、ジャムが売り物になってもならなくても問題無いような……？）

「そのつもりだが……」
「なら、別にジャムが売り物に選ばれなくても良くない……？」
「ーーうん？」

　首をかしげながら言ったリアーヌの言葉に、パン屋も釣られるように首をかしげながら応える。

「パンに使うジャムや砂糖漬けは、おっちゃんが作ったやつを絶対に使えるんだから、そこまで気にしなくても……そりゃジャムとかも卸せたらたくさん儲けられるけど……」
「ーー待ってくれ、使えるのか？」
「そりゃ使えるでしょ。　パン屋がパン用に作ったジャムを、おみやげ屋に置く分と違うからと使うな、とか意味不明すぎる」

　眉をひそめながらたずねてくるパン屋に、リアーヌ肩をすくめて呆れたように答えた。

　その周りでは、村人たちが顔を見合わせながらその会話に聞き耳を立てていた。