成り上がり令嬢暴走日記！

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　突然険悪な空気になった二人に、ラッフィナート家の護衛たちは困惑の表情を浮かべ、オリバーは少し眉を引き上げてアンナに一瞬視線を送ったが、なにを言うわけでも顔を顰めるでもなくリアーヌの護衛に集中しーー村人たちは完全に置き去りにされ、どよどよとざわめきながらことの成り行きを見守っていたーー

　そんな中、アンナは完璧な笑顔のまま「恐れながら……」と少し頭を下げながら喋り始めた。
　そんなアンナに決して友好的とは言えない笑顔を向けて答えを待ちうけるゼクス。
　少々虫の居所が悪い今、どんな答えが返ってきても、そう簡単に許すつもりはないようだった。

「ーー元々お嬢様が同席に難色を示していたにも関わらず、このような場に引き摺り出し、怯えさせたあげくの果てに助言まで求めるような男が、果たして当家のお嬢様に相応しいものなのか……ーー男爵様はどうお考えなのでしょうか？」
「…………」

　ゼクスは怒りに身を任せアンナに突っかかった自覚があった。
　しかし、アンナが自分に対して怒り狂い、苦言を呈して来たのだということには今の今まで気が付けなかったようだった。

　その怒りを一気に霧散させたゼクスは、気まずそうに視線を逸らし、唇を噛み締めて真一文字にしながら、こめかみあたりを揉み込むようにポリポリとかいた。
　そしてたっぷりの時間をとった後のち、わざとらしい咳払いと共にアンナに向き直ると、素早く口を開いた。

「ーー改善に努めます」
「ーー早急な改善を求めます」
「はい。　……今更だけど、リアーヌ部屋に戻る？　クレープは新しいものを届けさせるし……」

　ゼクスはリアーヌに向かい、明らかな愛想笑いを浮かべながら優しい口調でたずねる。
　そんなゼクスの態度にクスリと微笑みを漏らしたリアーヌだったが、先ほどから感じる嫌な気配が一段と強くなってしまったので、眉を下げながら首を横に振った。

「……無理しなくても大丈夫だよ？」

　ゼクスが優しい声でリアーヌの顔を覗き込みながら念を押す。
　その視線がたまに自分の背後ーーアンナの様子を確認するように動いていなければ、きっと赤面していたのだろうな……と感じるほどには甘く優しい表情だったのだがーー

　リアーヌの関心の殆どは、その提案をされたことによって、より一層強くなった嫌な予感にあった。
　それを早くどうにかしてしまいたくて、リアーヌは懇願するようにゼクスに訴える。

「……ーーこの村から手を引くのはダメだと思います」

　そんなリアーヌの様子にゼクスは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに肩をすくめ、わざとおどけるような態度で答えた。