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 そのことにはゼクスを気がついていて、思わず苦笑を浮かべてしまった。

「そりゃ取らされるかもしれませんけどーー俺がやるべき最低限にここの統治は入ってませんので? ……この国の玄関口とも言える貿易の拠点であるセハの港を一望できる場所に軍事……ーー国の守りを配置できる場所とそこまでの通路を確保すること。 ……ね? 村の統治なんて入ってないでしょう⁇ そりゃ俺だって、せっかく陛下がご好意で用意してくださった領土を地図から消えてしまうのは忍びないですけど……ーー道や森の切り開きが完了してるなら、よくてお叱りのお言葉、悪ければ爵位取り上げーーかな?」
「貴族でいたくねーのかよ⁉︎」

 村人からゼクスに向かってかけられた言葉は、もはや悲鳴と言っても過言ではないほどに悲壮感に溢れていた。

「ーー……むしろうち、貴族になりたくなくて足掻いてる家なんですけどねー……?」

 乾いた笑いと共にそう吐き出された言葉はとても小さく、隣に座っているリアーヌでも注意を払わなければ聞き漏らしてしまうほどだった。

「恐れながら……」

 そんなゼクスにアンナが頭を下げてつつ、一歩前に踏み出しながら発言の許可を求めた。

「……なんでしょうか?」
「ーーそうなってしまった場合、この婚約は無効でございましょうか?」
「え……?」

 アンナの言葉にリアーヌが驚愕に目を見開き、確認するかのように恐る恐るゼクスの方に視線を移した。

(ーーそういうことに……なる、のかな?)

 リアーヌがそう言葉にしようとした時、同じように目を見開いてアンナを見つめていたゼクスが慌ててリアーヌに話しかけた。

「ないないない! そんな契約になってないからね⁉︎ 婚約の契約に男爵家は関係ないんだよ? 契約を交わしたのは俺が平民だった時だからねっ⁉︎」
「……じゃあ婚約は継続?」
「当たり前でしょ? ーー……もしかしてアンナさんはこの婚約に含むところでもおありで?」

 リアーヌが納得したことに大きく息をき、胸を撫で下ろしたゼクスは、頭を下げながら一歩下がるあんなにチラリと視線を流すと、少々攻撃的な視線でチクリと刺すような質問を投げかける。

「ーー別にラッフィナート家ご縁が悪いものとは思っておりません」

 その質問に顔を上げ、ゼクスからの視線を真正面から受け止めたアンナは、ニコリと完璧な笑顔を貼り付けて答えた。
 そのアンナの言葉の裏の意味まで的確に把握したゼクスは、面白そうに笑みを浮かべるとさらに質問を重ねる。

「なるほどぉー? 含むところがあるのはうちじゃなくて俺の方ってことなのかなぁー⁇」
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