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「お気に召していただけたようで恐縮でございます」

 抑揚のない声でそう言ってリアーヌに向かい、わざとらしいほどに深々と頭を
頭を下げたのは、この村のディーター・ヘイネス。
 濃い赤茶色の髪に混じった白髪の目立つ五十代程度の男性で、本来ならばこの村の村長となるべき人物だった。

 この村を長い間治めていた前領主は、この村に村長を置くことを許さず、自分の息のかかった役人を代官として移住させ、その者を村の村長代わりとして扱っていたのだ。
 当然、村人たちが納得するわけもなく、代官の目の届かないところではずっと村長と呼び続けていたのだったが。

(……ずいぶん腰の低い人……ーーあ、お辞儀の角度を勘違いしてる人かも⁉︎)

 未だに深々と頭を下げ続けているディーターに授業中の自分を重ね合わせたリアーヌは、ゲーきを食べていた手を止める。
 そしてディーターに「顔を上げてください」と声をかけてから、満面の笑みで口を開く。

「このケーキ本当に美味しいです! パイナップルもすごく甘いし! ぜひまた食べさせてくださいね」

 その言葉にディーターはニコリともせずピクリと眉を跳ね上げると、再び顔を伏せて答える。

「……もしよろしければ、お好きなだけご献上いたします」
「え……?」

 ディーターの言葉と態度に、リアーヌはようやくディーターがーーそしてその後ろに控える、数名のこの村の住人たちが、自分たちの訪問をまったく歓迎していないのだ、ということに気がついた。

 オロオロと視線を巡らせるリアーヌを落ち着かせるように、隣に座っていたゼクスがその手に自分の手を重ねた。
 そしてディーターに向かって口を開く。

「個人的に用意して欲しい分についてはちゃんと買い取るつもりですよー?」
「……さようでございますか」

 ゼクスの言葉にフンッと鼻を鳴らしながら答えたディーターは、愛想笑いさえ浮かべることもなくそのまま会話を終了させる。

(ーーこれは……マナーがどうこうではなく、ただただこの人が感じ悪いってこと、だよね……? ーーえ、男爵とはいえ現役貴族で、あのラッフィナート商会の跡取り息子やで……? そもそも領主だし……ーーケンカ売るには相手が悪すぎない……⁇)

「ーー……それ食べ終わったらどうするー?」

 気まずい沈黙を破り、ゼクスは極力明るい声でリアーヌに話しかけた。

「あ、えっと……?」

 問いかけられたリアーヌは食べかけのケーキに視線を落とし、少し考える。

(……時間的に夕飯も近いし、ずーっと馬車の中で座りっぱなしだったし、腹ごなしも兼ねてお散歩したいかも……?)
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