成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 そこには紅葉に似た真っ赤な花を持つ低めの木が、その枝を悠然と広げて立っていた。

「おー……真っ赤っか」

(桜みたいに花が咲くときは葉っぱが無い木なのかな? 真っ赤な花がわっさりしててすごい綺麗……ーーしかもこの距離でこんないい匂いって……ーー)

「ーーゼクス様あの木ください」
「え……ーーあ、花園用だね? 確かにピッタリだ。 手配しておくよ」

 その芳しい香りに癒されながら、リアーヌたちは旅路を進んでいくーー
 サンドバルの村はもうすぐそこだった。



「ーーゼクス様、ここは楽園だと思います……」
「……気に入ってもらえて嬉しいな?」
「おいひぃ……」

 恍惚の表情を浮かべてリアーヌが頬張っているのは、この世界で初めて食べるショートケーキだった。


 サンドバルの村にようやく到着した一行は、宿屋代わりにもなっている、元代官の屋敷で村の代表者たちからのおもてなしを受けていた。
 ショートケーキはこの村がある山で取れる、ルチェという実を使い作るこの土地ならではのケーキなのだと説明され、リアーヌは(確かに食べてないかも⁉︎)と、驚愕に目を見開いていた。


「レシピを売っていただきましたので、お屋敷に戻っても食べられますよ」

 満面の笑みを浮かべてケーキを食べるるリアーヌにアンナが小声で伝える。

「本当⁉︎」
「はい。 ルチェの苗も手配していただきましたので、なんの心配もございません」
「いつでも食べられる⁉︎」
「もちろんですとも」

 リアーヌの口元に残るクリームをサッと拭き取りながらアンナが答える。
 ーーここ数日、オリバーがリアーヌをまるで子供のように扱い続けていたため、初めは苦言を呈していたアンナの方にも、少なからずその影響が出はじめて ているようだった。

「ーー構いませんけど……こう、商人の血が騒いじゃうんだよなぁ……」

 そんなやりとりを眺めていたゼクスが小さな声でグチるように言った。
 子爵家で幼い頃よりクラスメイドが欲しがるほどのケーキのレシピだ。
 自分ならばどれだけの条件を引き出すことが出来たのだろうか? と皮算用をはじめ、してもいない大損をしたような気分にになっていた。

(スポンジふわっふわ、クリームも程よく甘くってサッパリクリーミー! ーーそういえば食べてなかったなー……イチゴじゃなくてパイナップルなのがちょっと残念だけどーーこのパイナップルはパイナップルでめっちゃ甘くて美味しいから、やっぱりなんの問題ないね! パイやタルトやチーズケーキ、それからシュークリーム……そもそも、元々がショートケーキよりもチョコレートケーキ派だったから、本当に盲点だったな……ーーこうなってくるとイチゴのショートケーキが食べたくなってくる……)
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