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『行っちまった……』
『なぁあんた、あの娘にこれやってくれよぉ……』
店の中に残された三人組は残念そうに肩を落としながら顔を見合わせると、ソロリ……と、アンナの様子を伺いながら料理を差し出した。
「ーーお嬢様にものを与えないでくださいまし⁉︎」
店の中に響き渡ったアンナのその言葉に、ことの成り行きを見物していた他の客たちが笑い始め、早朝にもかかわらず店の中は楽しそうな笑い声で満たされたのだったーー
しかしこの騒ぎにより、見物客の全員が(あの娘“お嬢様”とか呼ばれてたけど、きっとメイドを雇えるほどの裕福な家の子なだけで、貴族とかじゃないな、絶対)などと思われていたことは、結果的にリアーヌの名誉を守ることになったのかもしれない……
(この店はアウセレで暮らしてた腕のいい料理人が働いてるから、おすすめなんだぞ! ってついさっき教えてもらったばっかりなのに! 久々のお寿司だったのにっ‼︎ なんで皆して邪魔するの⁉︎)
宿に戻されたリアーヌは、その苛立ちをぶつけるかのように、用意してもらった朝食にかぶりつくのだったーー
◇
「いい匂いがする……」
ガタゴトと舗装されていない道をゆっくり進む馬車の中。
外から香ってきた匂いにリアーヌは馬車の窓、その少しの隙間に鼻を近づけ、クンクンと鼻を鳴らした。
セハの港を出発してから数日、リアーヌたちはサンドバルの村に向けて順調に旅を続けていた。
一日中馬車に揺られ夜は野宿という、貴族令嬢が心を病んでしまいそうな旅路であったが、リアーヌ自身はゆったりと進む馬車の中でゼクスとの会話を楽しんだり、読書に集中したり、夜はキャンプのようだと毎日を謳歌していた。
ーーどちらかというと、生まれてからずっとボスハウトの屋敷で育ったアンナの方がこの度に対する不満は多いようだったが、なんでも楽しむリアーヌの様子に、どこか吹っ切れたような表情を浮かべることも増えてきていたのだった。
「リアーヌお腹空いちゃった?」
クンクンと鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぐその仕草が小動物を連想させて、ゼクスはクスクスと笑いながら揶揄うようにたずねた。
「違いますぅー! 外から……こう、フルーツみたいないい匂いがするんですっ」
「……まぁ、してるけどね?」
唇を尖らせながらムキになるリアーヌに、その笑みを深くしたゼクスは肩をすくめながらも軽く頷いて同意する。
確かに馬車の外から甘い匂いが漂っているのを自身も感じていたためだ。
「ーーあちらの木でしょうか?」
リアーヌの隣に座っていたアンナがリアーヌが鼻を近づけている窓とは逆の窓ーー出入り口のドアに付いている窓から外を指差した。
『なぁあんた、あの娘にこれやってくれよぉ……』
店の中に残された三人組は残念そうに肩を落としながら顔を見合わせると、ソロリ……と、アンナの様子を伺いながら料理を差し出した。
「ーーお嬢様にものを与えないでくださいまし⁉︎」
店の中に響き渡ったアンナのその言葉に、ことの成り行きを見物していた他の客たちが笑い始め、早朝にもかかわらず店の中は楽しそうな笑い声で満たされたのだったーー
しかしこの騒ぎにより、見物客の全員が(あの娘“お嬢様”とか呼ばれてたけど、きっとメイドを雇えるほどの裕福な家の子なだけで、貴族とかじゃないな、絶対)などと思われていたことは、結果的にリアーヌの名誉を守ることになったのかもしれない……
(この店はアウセレで暮らしてた腕のいい料理人が働いてるから、おすすめなんだぞ! ってついさっき教えてもらったばっかりなのに! 久々のお寿司だったのにっ‼︎ なんで皆して邪魔するの⁉︎)
宿に戻されたリアーヌは、その苛立ちをぶつけるかのように、用意してもらった朝食にかぶりつくのだったーー
◇
「いい匂いがする……」
ガタゴトと舗装されていない道をゆっくり進む馬車の中。
外から香ってきた匂いにリアーヌは馬車の窓、その少しの隙間に鼻を近づけ、クンクンと鼻を鳴らした。
セハの港を出発してから数日、リアーヌたちはサンドバルの村に向けて順調に旅を続けていた。
一日中馬車に揺られ夜は野宿という、貴族令嬢が心を病んでしまいそうな旅路であったが、リアーヌ自身はゆったりと進む馬車の中でゼクスとの会話を楽しんだり、読書に集中したり、夜はキャンプのようだと毎日を謳歌していた。
ーーどちらかというと、生まれてからずっとボスハウトの屋敷で育ったアンナの方がこの度に対する不満は多いようだったが、なんでも楽しむリアーヌの様子に、どこか吹っ切れたような表情を浮かべることも増えてきていたのだった。
「リアーヌお腹空いちゃった?」
クンクンと鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぐその仕草が小動物を連想させて、ゼクスはクスクスと笑いながら揶揄うようにたずねた。
「違いますぅー! 外から……こう、フルーツみたいないい匂いがするんですっ」
「……まぁ、してるけどね?」
唇を尖らせながらムキになるリアーヌに、その笑みを深くしたゼクスは肩をすくめながらも軽く頷いて同意する。
確かに馬車の外から甘い匂いが漂っているのを自身も感じていたためだ。
「ーーあちらの木でしょうか?」
リアーヌの隣に座っていたアンナがリアーヌが鼻を近づけている窓とは逆の窓ーー出入り口のドアに付いている窓から外を指差した。
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