234 / 1,038
234
しおりを挟む
◇
「だから生物はダメだって!」
ゼクスはリアーヌが伸ばしたフォークを持つ手を慌てて下げさせながら声を荒げる。
なにを食べても美味しい美味しいと大はしゃぎしていたリアーヌの存在は、この店の中で良い意味でも悪い意味でも目立ち、そして他の客からの注目を集めていたーー
……そんな客の中に、アウセレ国ーーこの国から見て西に位置する島国で、日本に酷似している国ーーからの商人たちが混じっていたことは、リアーヌとっては幸運でゼクスたちにとっては不幸なことだったのだろうーー
なんでも美味しそうに食べるリアーヌに興味を示した三人のアウセレ人たちは、日本語でリアーヌたちに話しかける。
『いい食べっぷりじゃねぇか、どうだい、この刺身も食って見ねぇか? 美味いぞ?』
と、刺身の乗った皿を片手にーー
そのアウセレ人たちにとっては、少々はしゃいでいる子供をからかう気持ち半分、この国ではなかなか受け入れられない刺身や寿司を少しでも布教したい気持ち半分だった。
だから言葉やジェスチャーが通じなかったり、顔をしかめられたらすぐに引くつもりだったのだが……
『本当ですか⁉︎』
と、流暢な母国語を操りキラキラと瞳を輝かせた少女に、アウセラ人たちは(なるほど、この子はこちらに住んでいたり、長期滞在をした経験があるんだな)と納得し、それならばーーと一匹の甘エビの尻尾をつまみ上げ、少女に手渡した。
少女は手慣れた様子で甘エビを口に入れると、尻尾をキュッと摘んで尻尾の中の身まで綺麗に食べて見せた。
「うわ、この甘エビあまっ⁉︎ なにも付けてないのに激うまじゃん‼︎」
自分たちと同じ食べ物を、自分たちと同じような反応で食べた少女に気を良くした三人は、ニコニコしながら少女を自分たちのテーブルに招く。
『気に入ったならもっと食いな!』
『こっちには寿司もあるぞー?』
『寿司‼︎』
歓声をあげ、スタスタと歩き出したリアーヌの後ろにため息をつきながらオリバーが続いたところで、ようやくゼクスが正気に戻った。
「……待って待ってダメだよダメ!」
ゼクスは慌ててリアーヌに駆け寄るとその腕を掴みながら必死に言い募る。
アウセレ人たちの食の好みに文句を付けたいわけではなかったが、それを食べようとしているのが、お預かりしている子爵家ご令嬢ともなれば、相手の機嫌のことなど気にしている暇はなかった。
(やめてよ⁉︎ 食中毒にでもなったらどうするの⁉︎ 子爵様たちに顔向できないどころか、あの執事に殺されちゃうけど⁉︎ ……いや、ばーちゃんに殺されるほうが先かな……)
最悪な想像をしつつ、これ以上は! とゼクスは必死にリアーヌを押しとどめる。
「だから生物はダメだって!」
ゼクスはリアーヌが伸ばしたフォークを持つ手を慌てて下げさせながら声を荒げる。
なにを食べても美味しい美味しいと大はしゃぎしていたリアーヌの存在は、この店の中で良い意味でも悪い意味でも目立ち、そして他の客からの注目を集めていたーー
……そんな客の中に、アウセレ国ーーこの国から見て西に位置する島国で、日本に酷似している国ーーからの商人たちが混じっていたことは、リアーヌとっては幸運でゼクスたちにとっては不幸なことだったのだろうーー
なんでも美味しそうに食べるリアーヌに興味を示した三人のアウセレ人たちは、日本語でリアーヌたちに話しかける。
『いい食べっぷりじゃねぇか、どうだい、この刺身も食って見ねぇか? 美味いぞ?』
と、刺身の乗った皿を片手にーー
そのアウセレ人たちにとっては、少々はしゃいでいる子供をからかう気持ち半分、この国ではなかなか受け入れられない刺身や寿司を少しでも布教したい気持ち半分だった。
だから言葉やジェスチャーが通じなかったり、顔をしかめられたらすぐに引くつもりだったのだが……
『本当ですか⁉︎』
と、流暢な母国語を操りキラキラと瞳を輝かせた少女に、アウセラ人たちは(なるほど、この子はこちらに住んでいたり、長期滞在をした経験があるんだな)と納得し、それならばーーと一匹の甘エビの尻尾をつまみ上げ、少女に手渡した。
少女は手慣れた様子で甘エビを口に入れると、尻尾をキュッと摘んで尻尾の中の身まで綺麗に食べて見せた。
「うわ、この甘エビあまっ⁉︎ なにも付けてないのに激うまじゃん‼︎」
自分たちと同じ食べ物を、自分たちと同じような反応で食べた少女に気を良くした三人は、ニコニコしながら少女を自分たちのテーブルに招く。
『気に入ったならもっと食いな!』
『こっちには寿司もあるぞー?』
『寿司‼︎』
歓声をあげ、スタスタと歩き出したリアーヌの後ろにため息をつきながらオリバーが続いたところで、ようやくゼクスが正気に戻った。
「……待って待ってダメだよダメ!」
ゼクスは慌ててリアーヌに駆け寄るとその腕を掴みながら必死に言い募る。
アウセレ人たちの食の好みに文句を付けたいわけではなかったが、それを食べようとしているのが、お預かりしている子爵家ご令嬢ともなれば、相手の機嫌のことなど気にしている暇はなかった。
(やめてよ⁉︎ 食中毒にでもなったらどうするの⁉︎ 子爵様たちに顔向できないどころか、あの執事に殺されちゃうけど⁉︎ ……いや、ばーちゃんに殺されるほうが先かな……)
最悪な想像をしつつ、これ以上は! とゼクスは必死にリアーヌを押しとどめる。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
カフェ・ユグドラシル
白雪の雫
ファンタジー
辺境のキルシュブリューテ王国に店長が作る料理に舌鼓を打つ、様々な種族が集う店があった。
店の名前はカフェ・ユグドラシル。
そのカフェ・ユグドラシルを経営しているのは、とある準男爵夫妻である。
準男爵はレイモンドといい、侯爵家の三男であるが故に家を継ぐ事が出来ず高ランクの冒険者になった、自分の人生に悩んでいた青年だ。
準男爵の妻である女性は紗雪といい、数年前に九尾狐を倒した直後にウィスティリア王国による聖女召喚に巻き込まれた挙句、邪心討伐に同行させられたのだ。
しかも邪心討伐に同行していた二人の男によって、聖女を虐げたという濡れ衣を着せられた紗雪は追放されてしまう。
己の生きる道に迷っている青年と、濡れ衣を着せられて国を追われた女が出会った時、停滞していた食文化が、国が、他種族が交流の道を歩み始める───。
紗雪は天女の血を引くとも言われている(これは事実)千年以上続く官人陰陽師の家系に生まれた巫女にして最強の退魔師です。
篁家や羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。
紗雪が陰陽師でないのは、陰陽師というのが明治時代に公的に廃されたので名乗れないからです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる