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 リアーヌは夕飯を食べ終え、宿の窓近くのソファーでくつろいでいた。
 全開にしている窓からはセハの港がよく見え、吹き込んでくる潮風は程よく冷えていて心地いい。

(たこ焼き美味しかったなぁ……ベビーカステラもふわふわカリカリだったし! ーーやっぱり晩御飯とか気にせず、屋台巡りがよかったな……りんご飴やチョコバナナみたいなのも見えてたのにっ! また食べたいなぁ……ーー明日の朝とかやってたりしないかな⁉︎)

 リアーヌが想いを馳せていたのは、夕飯前に食べた、屋台の料理ばかりだったが……

「ーーお嬢様、こちらはどういたしましょうか?」

 リアーヌの部屋の中で、リアーヌの荷物を片付けたりしていたメイドのアンナが真珠の粉が入った薬瓶を手にたずねた。

「あー……」

 リアーヌはその薬瓶を目にすると、少し迷うように視線を巡らせた。

(たしかトムさんは飲み薬だって言ってたし、真珠の味も気になるんだけど……ーーなんか違うにもするんだよなぁ……?)

 胸に湧き上がるモヤモヤを押さえつけるようにリアーヌは自分の鎖骨あたりを撫で付ける。

 眉をひそめ、何事かを考え込んでいるような様子のリアーヌに、アンナはほんの少し目を細めると、慎重に口を開いた。

「ーーどのようにすればよろしいと思われますか?」

 アンナのその質問に、リアーヌはキョトリと目を丸くする。

(どのように……ーーどういう風に使えばいいのかってこと……?)

 心の中で(飲む以外に何か方法が⁇)と続けたところで、ふっと違う映像が頭の中に次々と映し出された。

 アンナと二人、器と真珠の粉を持ちながら顔を突き合わせ何かを作っている映像。
 手鏡を片手に白い布のようなものを顔に貼り付け、最後にかすかに湯気の昇るタオルを乗せ、二人仲良くベッドに横たわっている映像。
 そして、洗顔後のような格好で手鏡を持ちながら、二人とも鏡に映る自分の顔にうっとりとしている映像。
 二人顔を見合わせ、手に手を取り合うと、キャッキャとはしゃぎ出した映像ーー

(……ーーなんかとっても楽しそう……⁉︎)

「ーーこの粉水で溶いて布に浸して、パックしましょう! 最後は蒸しタオルを乗せてしばらく放置! ……ーーアンナさん一緒にやりませんか?」
「わ、私もーーでございますか?」

 リアーヌからの誘いの言葉は完全に想定外だったのか、アンナの声がわずかに裏返る。

「……ダメでしょうか?」
「ーーお嬢様はそれがよろしいと思われたのですね?」

 アンナはなにかを探るような視線をリアーヌに向けながら、念を押すようにたずねる。
 しかしリアーヌはその質問の意図が分からず、首を傾げながらあっけらかんと答える。

「よく分かりませんけど、いいことがある気がします」

 リアーヌの答えにアンナは少しだけ肩を下げたが、すぐにグッと背筋を伸ばしリアーヌに向かい綺麗な笑顔を浮かべ、恭しくこうべれた。

「ーーではそのように」
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