成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 ゼクスに同意を求めるように首を傾げられ、リアーヌはコクコクと小刻みに頷き返した。

 リアーヌには“お忍び”ではなくてはならない理由があった。
 港の散策に出かける際「お嬢様の行くような場所ではありません」とアンナの反対にあったのだが、それを「お忍びで行きますから……」と取りなしてくれたのがゼクスで、遠くからでも分かるほどいい匂いを漂わせていた屋台街を見て回る時も難色を示したアンナに「行くぐらい構わないんじゃないですかぁー? 流石に好き勝手飲み食いされんのは困るけど、見るくらいならねぇ⁇ それにお忍びなんて貴族の嗜みみたいなもんでしょー」と言ってくれたのが、新しく護衛に加わったオリバーだった。

(ーーお忍びだから屋台街に行けた……ーーつまりお忍びじゃなくなったら、屋台街で好き勝手食べられないってことじゃん! たこ焼きとチョコバナナは絶対食べるんだからっ)

「そうは言うがよぉ……」

 テオはそう言いながら恐る恐るまたソファーに腰かけるが、視線はおどおどと忙しなく動き回り、背中は丸く丸まってしまっていた。

「今更だって。 おやっさんの態度が気に入らなかったら、すぐにここから立ち去ってるよ」
「……それはそう、だよな?」
「ーー大体、お忘れかもしれませんが、俺だってれっきとした男爵様なんですけどね⁉︎」
「ーーそれもそうか……?」

 そう言ってガシガシと頭をかいたテオはヘラリと笑うと「カッコ悪いとこ見せちまったな……?」とリアーヌ睨むかって恥ずかしそうに笑って見せた。
 そして、ふぅーと息をひとつつくと、ソファーにゆったりと座り直したのだった。

(しかし……ーーやっぱり私ってば普通にしてたら全く貴族だなんて思われないんだなぁ……ーー自分では結構、お嬢様的所作が身についてきたと思ってたんだけどなぁ……)

 リアーヌは少しだけ唇を尖らせながら心の中で一人グチる。

 しかし、この認識はあながち間違いではなかった。
 リアーヌの所作は庶民としてはとびきりの、貴族としては及第点ギリギリのーーといったレベルにまでは上がっていた。
 しかし、テオはリアーヌを貴族ではないのだろうと判断した。
 これは所作など関係ないところでテオが判断を下したからであった。
 ーー王都からずっと離れた国のはずれ、自分たちが税を納めている領主ですらほとんど滞在しないと言うのに、日にやけると夏の日差しを嫌い、肌や髪が痛むと潮風を憎む貴族のご令嬢が、まだ婚約しているだけの段階でくっついてくるとは夢にも思わなかったのだ。

(……大方、どこぞの商家の娘っ子で騙くらかして、美味しい契約でも結んじまおうって腹なんだろうと思ってたんだけがなぁ……ーーまさかの本物かよ……)

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