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「ーーそう言われたら、用意するのも悪くない気もするけど……でも葬儀の予定もないのに買うのはなぁ……ーー誰かの不幸を願ってるみたいじゃないか」

 リアーヌのうまい言い回しに大いに納得していたゼクスだったが、さらにリアーヌから言葉を引き出そうと、考えつく限りの否定の言葉を重ねた。

(ーー実際、なにを言っても頭の硬い客ってのはいるしーー……これを店内で言われて、うまく返せなければ多くの客を逃すことになりかねない……)

「……確かにそう思われても仕方がない部分もありますがーー別れの時というものは誰にでも等しく、そして多くの場合突然にやってくるものです。 いざという時に備え、事前に納得のいくものを用意しておくーーそんな心配りを“縁起の悪いもの”だなんて……私はそうは思いません」
「ーーうん。 こりゃ買うなぁ……」

 ゼクスは呆然と、しかし顔を緩めながら嬉しそうに呟く。

「ーー心配りを縁起が悪いだなんて言えねぇよなぁ……? 嬢、くちうまいなぁ⁇」

 向かいの席ではテオが、大きな息を吐き出しながら感心したように言った。

 そんなふうに褒められたリアーヌは、嬉しそうに、しかしどこか気恥ずかしそうにハニカミながら前髪をいじる。
 しかしその手を一瞬で下ろすと、どこか芝居がかった口調でテオに向かって話しかける。

「ーーでもきっとお貴族様なら誰だってこのくらい出来ちゃいますよ?」

(皆ありえないくらい言葉遊びが上手じょうずだし、屁理屈捏ね出したら止まらないからね……)

 この夏、初めて社交界の末端に身を置いたリアーヌは、貴族の舌戦を間近で見る機会が多かった。
 口先だけで戦うことに慣れ切った貴族たちは、それはそれは口がうまくーー数々の商人を相手に値切りスキルを鍛えていた母リエンヌを持ってしても「……無理よ。 だってあの人たちどこまでいってもこっちの話聞かないんだもの……」と言わしめるものだったのだ……

(ーーまぁ、すぐに父さんのスキルで母さんのターンが回ってきて、ちゃんと交渉できたらしいけど……母さんが無理なら私に出来るわけがねぇんだよなぁ……)

 そんなことを思い出し、遠い目をしているリアーヌの耳に、ケラケラと楽しそうに笑うテオの笑い声が聞こえてきた。

「マジかよ。 貴族ってすげえんだな?」

 そう笑いながら上機嫌でゼクスに話しかけている。

「出来ーーる人もいそうだけど……ーー真珠のセールスなんて普通の貴族はやらないかなー……?」
「ーーえっ」

 困ったように笑いながら言ったゼクスの言葉に、リアーヌは驚いて小さな声を上げた。

(……ーーこれでも普通の貴族の括りにかろうじて入っているような気がしていたのですがそれは……?)
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