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「そりゃそうなんだが……この値段で全部はーー今用意出来る分の半分でどうだ?」
「……ねぇ?」

 意味ありげにテオを見つめるゼクス。
 もちろんこの言葉には商人がよく使う小技が効いていて、ここには無い分はもちろんのこと、この倉庫内にあっても少し奥まった場所に置かれているものも「出すのに時間がかかる」などの理由を付けられて除外される分に回されるのだろう。
 ーーつまりはどれだけ用意するかはテオの匙加減ということになるのだ。

「……そうだな、この木箱でニ箱ーーいや、三箱は用意出来るぞ?」

 テオの言葉にゼクスの眉がピクリと吊り上る。
 案の定、ドロップ型と限定してもゼクスの見立てよりもだいぶ少ない量を提示される。
 ゼクスはため息のような深呼吸をひとつこぼすと、リアーヌの方に顔を向け、しかし視線だけはテオに固定したまま、挑発的な微笑みを浮かべてみせた。

「ーー……ねぇリアーヌ?」
「はい?」
「あの端っこの色の濃い真珠あるでしょ?」

 リアーヌはゼクスが指差すほうを見つめる。
 そこには黒真珠やピーコックグリーンと呼ばれる濃い緑色の真珠たちが並んでいた。

「ありますね?」
「あの中で売れそうな真珠はあるかな?」
「売れそう……?」

(見た感じ、あれはバロックじゃなさそうだし、普通に売り物なんじゃないの……? 粒もだいぶ大きいし普通に売り物なんじゃ⁇)

 戸惑い、首を傾げているリアーヌは気がつかなったが、その真珠が乗る入れ物には値札らしいものは一つも付いていなかった。
 そして、並べられている入れ物も他のものに比べると一段と質素なものであった。
 その様は、大きさだけはあるから一応並べておいたーーとでも言っているようだった。

「そういうのがあったら教えて?」
「……よく分かんないんですけど、あの緑色っぽいのってピーコックグリーンですよね?」
「ピーコック……孔雀?」
「はい。 数があまり取れないから希少価値がーー」
「はいストップ!」

 ゼクスに視線で促され、ピーコックグリーンの説明を始めようとしたリアーヌだったが、それを説明させようとした張本人が制止する。

「ーーえ?」

 訳がわからず、眉をひそめながらゼクスを見つめるリアーヌ。
 申し訳なさそうな光を宿しつつリアーヌの口元近くに手をかざし続けるゼクス。
 困惑しきりのリアーヌが再び口を開く前に、ゼクスがいち早く語りかけた。

「まだ答えないで、俺がいいって言うまでダメだよ?」
「えっと……分かり、ました……?」

 答えてはいけない。 ということだけ理解したリアーヌは、ゼクスがなにをしたいのかは全く分からないないままに首を捻りながら頷く。
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