上 下
212 / 1,038

212

しおりを挟む
「……かかってる手間は例年通りなんだ。 にも関わらず出来た半分がそれなりの値段で買い叩かれるのはな……? ーーいやこの商売、作れなきゃ大損ってのは分かっちゃいるんだけどな⁉︎」

(そうなんだ……)

 相手が自然、そして生物である以上、それなりのリスクは覚悟していたテオだったのだが、それでも今まで通り待っていて半分近くが売り物にならないかもしれないという状況は受け入れ難いようだった。

「ーー嬢ちゃんはこの真珠綺麗だって言ってくれたよな……? だったらーー」
「悪いけど」

 テオが縋るような眼差しでリアーヌに向かい身を乗り出した所で、ゼクスがリアーヌの前に手を出し、テオに向かって大きな声を上げた。
 そしてテオにキツい視線を送りながら一段と低い声で唸るように言う。

「それ以上は許さねぇよ……?」
「……すまん」

 気まずそうに首の後ろを撫で付けながら謝罪の言葉を口にするテオ。
 そんなテオの態度に、ゼクスは大きくため息を吐くと、元の位置に座り直しながら肩をすくめる。

「ーー連れてきたのは俺だから、あんま言えた義理じゃないけど、俺のツレ食い物にしようってんなら、きっちり 相手になるからねー」

 そう言ったゼクスはテオに向かい、冗談めかしてニッと笑って見せた。

「すまねぇ。 もう言わねぇよ」

 そう言ったテオは申し訳なさそうに頭をかきながらリアーヌに向かい頭を下げた。

「……私、この水色っぽいのティアドロップ型とピンクのハートっぽい形のやつなら買いますけど?」

(色付きの真珠ってお高いんでしょ⁉︎ リアーヌ知ってる! ーーというか、元の世界でそう言われてたのを覚えてる!  
白いのにはまだあんまり興味ないけど、こういうカラフルなやつは可愛いと思う!)

「ーーじゃ、そのティアドロップ型とハート型は買って帰ろうねー? あ、ついでにそういう形のは全部買い取るから」
「……正規の値段でか?」

 ゼクスの言葉にテオの目に再びギラリと光が灯り、商人らしい顔つきになる。
 そんなテオにニヤリと笑ったゼクスは芝居がかった様子で肩をすくめる。

「多少の勉強はしてよー。 俺たちに売り渋ったって次の客なんかいないかもだろー?」
「む、ぅ……」

 ゼクスに言い返す言葉が見つからず、ぐぬぬ……と唸り声を上げるテオ。
 そんなテオに、困ったように肩をすくめたゼクスは、身体ごとリアーヌに向き直ると、ゆっくりと慎重に質問を口にした。

「ーーそれでこのティアドロップはなににする? やっぱりイヤリングかな?」
「私はそのつもりでした。 これとこれだったらついになるかなーって。 あ、サファイアも組み合わせたらすごい豪華なのになりますね!」

 リアーヌはフッと思い浮かんだ、小ぶりのサファイアの下に揺れる水色のティアドロップ真珠のイヤリングの映像を気に入り、それをそのまま口にする。

 そんなリアーヌの様子にゼクスは満足そうに頷くと、再び質問を重ねるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

断罪イベント? よろしい、受けて立ちましょう!

寿司
恋愛
イリア=クリミアはある日突然前世の記憶を取り戻す。前世の自分は入江百合香(いりえ ゆりか)という日本人で、ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢で、そしてイリア=クリミアは1/1に起きる断罪イベントで死んでしまうということを! 記憶を取り戻すのが遅かったイリアに残された時間は2週間もない。 そんなイリアが生き残るための唯一の手段は、婚約者エドワードと、妹エミリアの浮気の証拠を掴み、逆断罪イベントを起こすこと!? ひょんなことから出会い、自分を手助けしてくれる謎の美青年ロキに振り回されたりドキドキさせられながらも死の運命を回避するため奔走する! ◆◆ 第12回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願い致します。 ◆◆ 本編はざまぁ:恋愛=7:3ぐらいになっています。 エンディング後は恋愛要素を増し増しにした物語を更新していきます。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

処理中です...