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(口角は上げる。 上半身を二十度くらい倒しつつ、腰を落とす! かーらーのーキープ‼︎ 一、二、三。 はいゆっくり戻る! ーー口角は上げる!)

 教師やビアンカの指導を思い返しながらリアーヌは一つ一つの動作を丁寧にこなしていく。

 体を戻したリアーヌが(私的には完璧に近いなにかなのでは……⁉︎)と、手応えを感じ、満足気な笑みをその顔に浮かべ、二人を見つめた。

「こ、これはご丁寧に……恐縮でございます」
「……恐れ多いことでございます……?」

 貴族のご令嬢が自分達にここまで丁寧な挨拶を返すーーそんな想定外の事態にオットマーたちは視線を彷徨わせながらそれらしい言葉を並べ、ペコペコと頭を下げ始める。
 そんな二人姿に、今度はリアーヌが困惑の表情を浮かべる番だった。
 リアーヌが何度も受けた挨拶の場面において、こんなにも頭を下げる相手は現れたことがなかったためだ。

(……えっ? なんか急にペコペコしだしたんだけど……なんで⁇ ーーもしかして私なんか変なことしちゃった……?)

 まさか自分が原因なのか? と顔色を悪くするリアーヌ。

 なかなか頭を上げられない従業員と困惑し切った婚約者に挟まれ、ゼクスもまた。ハハ……と乾いた笑いを漏らすことしか出来なかったーー

 しかしいつまでも乾いた笑いを漏らしているわけにもいかず、この場の収集をつけられるのは自分以外にはいないと理解もしていたため、あー……という声と共に大量の息を吐き出し、うん。 と気合を込めて小さく頷くと、いつもの軽いノリでリアーヌやオットマーたちに声をかけた。

(貴族的収集とかもはや無理でしょ……さっさと終わらせよ……)

「じゃ、座って話そうか。 ねー? ーーほら早く。 いや本当に」

 リアーヌを促してソファーに座らせると、ゼクスもリアーヌの隣に腰掛ける。
 そしてテーブルを挟んだ向かいのソファーを指して、オットマーたちにも座るように指示をする。
 戸惑う二人に少しだけ威圧的な態度をとってしまったのは、この茶番が誰かを喜ばせることなどないと知っている、唯一の人物だったからかもしれない……



「ーー本当にコピーさせていただいても……?」

 リアーヌはソファーの向かい側に座ったオットマーとエルナに再度確認を取る。

 ゼクスの砕けた態度により(きちんとするのは最初だけで良いのかもしれない……?)とリアーヌが思い始め、オットマーたちも(そこまでかしこまらなくても、いいんだろうか……?)と肩の力を抜き始めた所で、リアーヌは緊張気味にオットマーたちに疑問を投げかけた。

「もちろんでございます」
「なんの問題もございません」

 少しの目配せはあったものの、それでもニコリと笑顔で答えるオットマーたち。
 その答えに納得がいかないのか、眉を顰めて隣に座るゼクスに視線を走らせる。
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