成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 そこまで考えたリアーヌはジッとゼクスの無駄に色気付いた顔を見つめると、盛大にため息をついた。

「……そ、そんなに嫌だった? リアーヌが嫌なら俺から子爵夫人にお断りしようか……⁇」

 少し目を見張りながらも、こちらを気づかう様子のゼクスに、ハッと自分がどれだけ失礼なことをしてしまったのかを自覚したリアーヌは、慌てて両手を交差させるようにバタバタと忙しなく動かしながらオロオロと狼狽え始めた。

「ご、ごめんなさ……ち、違うんですよ、あの……婚約破棄されたらやだなって、あの……」
「えっ婚約破棄⁉︎ なんで⁉︎」
「なんでーー……でしょうね……?」
「しないよ⁉︎ ってか、出来ないよ⁉︎ 俺たちの婚約はもはや王命だからね⁉︎」
「ーー……問題はそこですよねぇ……」

(だからこそ、悪役令嬢は犯罪を犯して退場する道しかないんだよ……)

「問題なんてどこにも無いけど⁉︎」
「ーー……好きな人が出来たら言ってくださいね……?」
「なんの話⁉︎」

 そんなリアーヌたちの不毛な会話は、騒がしくなった車内を不審に思った御者が馬車を止めて様子を伺うまで止まることはなかったのだったーー



「ーーとりあえず婚約の破棄なんて絶対に
しないものとして話を進めるけどね?」
「……もし検討を始める際にはご一報くださると……」
「し な い け ど ね ⁉︎」
「……はい」

 ゼクスの勢いに押され、渋々頷くリアーヌ。
 そんなリアーヌに、ゼクスは大きく息を吸い込むと、深呼吸するようにゆっくりと吐き出して気持ちを落ち着ける。
 そして気を取り直したように軽く咳払いしながら口を開いた。

「ーーそれで、うちの領地視察の話に戻るけど……嫌ならそう言って? 場所が場所だから、どう頑張っても快適な旅にはしてあげらないし……」
「……そうなんですか? でもゼクス様も行くんですよね⁇」

 天下の大商店、ラッフィナート商会の跡取りなのに快適な旅ではない、というのはどういうことなのかと、リアーヌは首を傾げながらたずねた。

「あー……そもそも、田舎も田舎だから道が全然整備されてないんだよ。 しかも山の上だから馬車でも時間がかかるしね」

 ゼクスはそう言いながら困ったように首をすくめて「むしろ馬だけで登ったほうが早いって話まであるらしいよ?」と、おどけて言った。

「あー馬車分軽くなりますもんね……?」
「そう言うことらしい。 近くの港町まではわりと快適に旅ができるから、大変なのはそこから二日……三日ぐらいかな?」
「港町⁉︎」

 リアーヌはゼクスの言葉に瞳を輝かせて歓喜の声をあげた。

(港って言ったら、海鮮物! サーモンに甘エビ、いくら‼︎ ……この国には魚を生で食べる文化がないけど、港町だったらワンチャンお刺身とかあるんじゃない⁉︎)

 ーー元が日本人なリアーヌは、新鮮な海鮮物がとても食べたかったようだった。
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