成り上がり令嬢暴走日記！

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「ーーご所望の本を三冊では？」
「……ギフトのほうでも構わなくてよ？」
「ーーふむ……ではご所望の本を二十冊では？」
「にっ⁉︎」

　ビアンカはゼクスの提案にギョッと目を剥きーーなんとか気合いで表情を取り繕うと、ゴクリと喉を鳴らしながら平静を装った。
　そして心を落ち着けるかの様に数回大きく深呼吸を繰り返したのち、リアーヌに向かって満面の笑みを向けた。

「リアーヌ、今年のパーティーは私に任せなさい？」
「……わーい。　ビアンカ優しいー。　好きーー」

　そう棒読みで言いながらリアーヌは大きく腕を広げた。
　その脳内では（私二十冊もコピー取るのか……）と言う考えや（でも、ビアンカ先生がそばにいてくれるならきっとなんとかなる……！）と言う希望など、さまざまな想いが交錯していた。
　そして（やっぱり本をコピーしなきゃ私を助けてくれないんだね……）と少し寂しく思いつつ、棒読みで感謝の気持ちを伝えながら、軽いハグを交わし合うのだった。

「よかったねー？　ーーそうだ、休暇の後半にもなればビアンカ嬢にも余裕ができるだろうから、そうなったったらお礼の品を届けに、領地にお邪魔させてもらおうね？」

　ビアンカが誘ってもいないうちから勝手に遊びに来ようとしているゼクスの非常識な発言に、顔をしかめていたビアンカだったが“お礼の品”と言う単語が出た途端に、満面の笑みを作りリアーヌに向かって口を開く。

「両親に話は通しておくから、遠慮せずに遊びにいらっしゃい」

　そう言いながら微笑んでみせたビアンカの表情は、おいしいカモを見つけて手ぐすねを引いている商人のようだった。

「ーー時間があるようなら私の用意した本もコピーしてくれる？」
「ええー？　ちょっとは遊ぼうよー」
「本を複製する遊びなんてどう？」

　クスリと笑いながら冗談めかして提案するビアンカだったが、その瞳は真剣そのもので、リアーヌが同意を返す瞬間を心待ちにしているようだった。

「ーーその遊び全然楽しくないよ……」

（本の複写なんて、私にとってはバイト以外の何者でもないから……）

　リアーヌはそう言って「うぇぇ……」と何かを吐き出すような仕草をする。
　そんなリアーヌの態度と、待っていた答えとは違った言葉を返されたビアンカは、ピクリと眉をはね上げると小さく鼻を鳴らした。

「複製を手伝ってくれたらーー……新作のボンボンが食べられてよ？」

　そして的確にリアーヌの心をくすぐるカードを切ったのだった。

「ーーあの宝石みたいなボンボン⁉︎」

　キラキラと瞳を輝かせて、目の前にぶら下げられた餌に迷うことなく、すぐさまかぶりつくリアーヌ。
　そのそばではゼクスが肩をすくめながら呆れたように笑っていた。

「そう。　好きでしょ？」
「好き！」
「コピー頑張ってくれる？」
「めっちゃ頑張る‼︎」
「まぁ、嬉しい」

　うふふーと、笑いながら口元を押さえたビアンカ。
　その隠した口元はニンマリと引き上がり、まるで三日月の様だったーー



「仲が良くて何よりだねー……」
　
　ゼクスはそう言いながら、欲望に忠実な、ある意味では似たもの同士な二人から視線を逸らす。
　そして、どっと襲ってきた疲れを和らげるように、首筋を揉み込むように撫で付けるのだった。