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 その日の昼休憩の時間。
 いつもの中庭にやってきたリアーヌたち。
 いつものベンチにやってくると、その日は随分と早い時間にゼクスが中庭に現れた。

(あれ……? 今日やたらと早くない⁇ いつもならご飯食べ終わったぐらいの時間に来るのに……ーーしかもなんか……笑ってる……?)

 リアーヌが気がついたように、こちらへ歩いてくるゼクスの口元はニヤニヤとだらしなく緩みっぱなしだった。
 そして、その視線はリアーヌではなくビアンカに向けられているように見えた。
 リアーヌは首を傾げながらも、チラリとビアンカに視線を走らせる。
 すると、ビアンカのほうも迎え撃つかのようにゼクスを見据え、ニコリと美しい笑顔を浮かべていたーー

(あっ…… コレ、私お口チャックのヤツだ……)

 二人から発せられる闘志溢れるオーラに、リアーヌはキュッと唇を引き結び、そして身を小さくしたのだった。



「ーーと言うわけで、このたび婚約いたしましたの」

 上辺はにこやかだったが終わった途端、ビアンカはパトリック・エッケルトとの婚約が整ったことを、短い言葉でゼクスに伝えた。

「ーーまぁ、そうなりますよねー……」

 リアーヌたちの前に立っていたゼクスはポケットに手を突っ込みながら、ため息を吐き、肩をすくめつつ少々お行儀悪く言い放った。
 そんなゼクスに、ベンチに腰掛けたままのビアンカも同じように肩をすくめて見せる。

 しかしリアーヌだけは、キョトキョトとゼクスとビアンカの顔を交互に見つめながら、顔を輝かせていた。

「やっぱり! そうだよね⁉︎ ーーおめでとう!」

 満面の笑みでそう伝えてくるリアーヌを見つめると、ビアンカは今までで一番美しいーーつまりは今までで一番が強い微笑みを浮かべながら口を開く。

「ーーリアーヌ、私たち友達……いいえ親友よね?」
「ぇ……ーーまぁ、そうだとは思うけど……」

 急に親友だ、などと言われて照れたリアーヌは、ニヨニヨと歪みそうになる口元をごまかすように前髪をいじり始めた。

(この距離感はきっと“親友”って言えちゃうんだと思うけど……ーーいや、改めて言われるとテレるでしょー!)

「親友……」

 リアーヌはボソリと噛み締めるように呟き、再びニヨニヨと歪みそうになる口元との格闘を再開させる。

「ーー私が嫁ぎ先で肩身が狭い思いをしていたら一緒に悲しんでくれる?」
「当たり前じゃん⁉︎」

 急にされた質問の内容が不穏すぎて、リアーヌは思わず自分のスカートをギュッと鷲掴みながら応えた。
 しかしその言葉を発したビアンカ本人は、リアーヌの答えに満足そうに微笑むと、スッとゼクスに視線を移した。

「ーーだそうですので、ご配慮願いますわ?」
「ーー……わっかりましたぁー。 できる限り配慮できるようしてみまーす」

 ニヤリと笑ってビアンカの視線を受け止めたゼクスは、そのままニコニコと言い放つ。
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