上 下
139 / 1,038

139

しおりを挟む
「いやいや、それではこちらも筋が通せませんよ。 ギフトの中でも攻撃魔法系のギフトは大変に人気の高いもの……それをコピーしておいて礼もしなかったとあっては、我が家の恥となりましょう……ーーどうかご理解を」

 そう言いながらにこやかに頭を下げるゼクス。

 金で解決できるのであれば儲けものだと理解しているゼクスはここで多少ゴリ押したとしても、受け取らせてしまえばこちらのものだった。
 ーーそしてそれはフィリップとしても理解していて、リアーヌの対応を理解できていないフィリップは、とりあえずの対策として礼金を受け取らない、という選択肢を選び取ったようだった。

「ーー大丈夫になりそうですか……?」

 ラルフとゼクスーー引いてはフィリップとゼクスが互いに牽制し合い、誰も言葉を発しなくなったタイミングで、会話が終了したのだと判断したリアーヌが、ゼクスの背中に向かって小声で確認する。

「……うん。 絶対大丈夫にするってば……ちょっとは信用して?」
「うぃ……」

 リアーヌの声に、すっかり毒気を抜かれたような表情を浮かべたゼクスは、こっそりと振り返ってリアーヌと同じように小声で返すが、この部屋に居る者たちにには、その会話の全てが筒抜けだったーー

(ーーゼクスがここまで自信を持って請け負ってくれるってことは大丈夫ってことなのかなぁ……? ーーつまり私ってば借金まみれ生活を回避できたってこと……よね? ーーそれにしてもやっぱりギフトって貴重なものって扱いなんだなー……ーーヴァルムさんがコピーするの断ってくれて良かったよ……多分うちじゃまともな礼金とか出せなくて、ヴァルムさんががっかりしちゃうところだった……)

 そんな事を考えながら、ホッとしたように大きく息を吐くリアーヌ。
 
「ーー……ちょっとあいつと話あるからリアーヌここで待っててくれる?」

 背中から聞こえてきた、場違いな安堵のため息に、再びリアーヌを振り返ったゼクスは、元々座っていた席を指差しながら言った。

 金で解決できるという可能性の裏側にはリアーヌのぶっ飛んだ発言からの予測不能なリスクが潜んでいるのだと正しく認識したゼクスは、そのリスクを嫌い元々の予定通りフィリップとの舌戦を繰り広げる決意を固めたようだった。

「……知らないうちに借金とか……」
「うん、絶対しないから。 ちょっと待ってて?」

 疑いの眼差しを向けてくるリアーヌに有無を言わせない笑顔を向けてゼクスは行った。

「……はぁい」

 少し不本意そうに唇を尖らせたリアーヌだったが、何故だか続々と差し出されるお茶会用の可愛らしいお菓子に瞳を輝かせながら、ご機嫌でゼクスたちの話し合いが終わるのを待つのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

断罪イベント? よろしい、受けて立ちましょう!

寿司
恋愛
イリア=クリミアはある日突然前世の記憶を取り戻す。前世の自分は入江百合香(いりえ ゆりか)という日本人で、ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢で、そしてイリア=クリミアは1/1に起きる断罪イベントで死んでしまうということを! 記憶を取り戻すのが遅かったイリアに残された時間は2週間もない。 そんなイリアが生き残るための唯一の手段は、婚約者エドワードと、妹エミリアの浮気の証拠を掴み、逆断罪イベントを起こすこと!? ひょんなことから出会い、自分を手助けしてくれる謎の美青年ロキに振り回されたりドキドキさせられながらも死の運命を回避するため奔走する! ◆◆ 第12回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願い致します。 ◆◆ 本編はざまぁ:恋愛=7:3ぐらいになっています。 エンディング後は恋愛要素を増し増しにした物語を更新していきます。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...