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「ーーはははっ 騙すだなんて人聞きの悪い……ボスハウト家とはきちんと条件のすり合わせを行い、子爵夫妻ーー執事にまで祝福していただいているんですよー。 ね、リアーヌ?」
「……まぁ?」

 婚約承諾書に関しては、騙された自覚しかないリアーヌ。
 唇を尖らせながらも言葉を濁しながら小さく頷く。

 最初の書類のトラブルさえなければ、そこから先のことはボスハウト家にーーリアーヌ本人にとって有利となるよう、極力気を配って采配してくれていたのだと言うことをリアーヌはちゃんと理解していた。
 ゼクスが出した条件が、かなりの譲歩をしていることもヴァルムや両親によってきちんと説明されていたし、最終的に両親はこの婚約に乗り気になっていて、ヴァルムでさえも文句は言っていなかったことーー
 そして、フィリップたちのゼクスに対する態度が、胸糞が悪くなるほどに感じが悪いものだったという事実も大きく関わっていた。

(ーー騙されたのは絶対間違いないけど、今それを置いといてもいいぐらいにはお前らにイラついているよっ!)

 リアーヌからは面白い話題を引き出せそうに無いと判断したフィリップは、一瞬つまらなそうな顔つきをしたが、再び何かを思いつくとニヤリと頬を歪めながら笑いーーすぐさま表情を取り繕うと、心配そうに顔を歪めながら、今度はリアーヌに向かって話しかけた。

「ーーしかし、陛下を巻き込んでなおですか……」

 これは言外に『わざわざ王命を引き出した挙句、許可を得たのが“婚約”では、本当に結婚する気があるのか怪しいものだぞ』ーーと言う、フィリップからの揺さぶりだったのだが……
 当然リアーヌにそんな意味が伝わるわけもなく……それどころかこの中で唯一、家名をはっきりと覚えているフィリップに話しかけられたことで、どことなくホッとした空気すら醸し出していた。

 ーーフィリップの言葉から感じの悪い空気だけは感じていたので、笑顔を浮かべることはしなかったが、それでもフィリップに話しかけられリアーヌの纏う空気が少し柔らかくなったことを、その他の者たちはちゃんと目撃し、そして動揺していた。

(ーー婚約であることに意味があるとでも言うのか……?)
(乗り気で無いと言う話は本当だった……?)
(ーー表情だけではウソかどうか判断がつかない、か……)
(……独特な感性を持つ人だからなぁ……)

(ーーえ? 何その反応⁇ ……まさかフィリップに気があるわけじゃ無いよね⁉︎)

(……あれ? どうしよう⁉︎ ゼクスからのフォローが飛んでこないんですけど⁉︎ え、これ私が答えるの? なんて答えるの⁉︎ ……授業の時みたいに笑ってごまかしたら怒られるのかなぁ……? 先生はもう何も言わなくなったけど……)

 ゼクスもーーリアーヌすら含めて、この部屋の中の全員が動揺していたのだったーー
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