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 まずフィリップたちは、リアーヌがこの婚約にあまり乗り気では無いと言う情報を掴んでおり、ここでゼクスに少しの攻撃を加えたとしてもリアーヌは咎めることも、助け舟を出すことも無いだろうという予想を立てていた。
 そのため、ここまでの怒りを自分たちに向けられるとは、全くの予想外だったのだ。

 ーーそして同じように、リアーヌの態度に驚いていた人物が一人。
 隣に座っていたゼクスだ。
 ゼクスもリアーヌがこの婚約に乗り気で無いことを十分に理解していた。
 だからこそ、ここまでフィリップに対して怒りをぶつけるとは思っても見なかったのだ。

 ーー実際のところ、リアーヌの怒りの原因はフィリップたちの先ほどの態度が原因では無かったのだが、絶妙なタイミングでそう思い込んでしまった者たちがそれに気がつくのは簡単では無いように思えた。
 ましてやフィリップとゼクスの二人は、お互いの視線の動きやその仕草しぐさから、相手が自分と同じように感じていると理解していた。
 そのため、余計に自分の考えに疑問を抱くことかなりの難易度になっているのだろう。

 自分達が思い描いていた話の流れにならなかったことに顔を見合わせ視線で会話をするフィリップたち。
 ほんの少しの時間ののち、パトリックが口を開いた。

「ーーその……お二方はご婚約なさったとか?」

 そうリアーヌに声をかけたパトリックの顔は、とてもこわばったものだったが、パトリックの家名を未だに思い出せていないリアーヌもまた、パトリックに話しかけられたことでギシリ……と体を硬直させていた。

「ーーそうなんですよー。 陛下にも認めていただけて……良かったよねー?」

 リアーヌへのフォローなのかパトリックへの牽制なのか、ゼクスはニコニコと嬉しそうにリアーヌへと話しかけた。
 そんなゼクスをリアーヌは天の助けとでも感じているのか、目を輝かせつつ、コクコクと盛大に頷いた。

「ーーやはり噂は本当でしたか」

 パトリックが独り言にしては大きめの声で、納得したように頷きながら呟く。

「……今代の、ボスハウト子爵はやり手だと聞いていたがーーよくもまぁ“許し”がもらえたものだ……もしや騙されているのでは?」

 手で口元を押さえ、クスクスと笑いながら冗談めかして揶揄うように言うフィリップ。
 ーーだったのだが、その言葉はあくまでも気の置けないであるならば成立する軽口であって、現在のゼクスとフィリップの関係性は、決して気の置けない仲とは言い難く、そもそも双方に友人であると言う認識がない以上、こうも簡単に口にしていい冗談ではなかった。
 










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